第209話
「アイドルって、どうやったらリアルで出会えるのかなぁ…」
陽菜はぼんやりと事務所のフリーフロアで楽譜を眺めながら深いため息を吐いた。
「何を言ってるのかさっぱりなんだけど…。つまり好きなアイドルがいて、リアルにお近づきになりたいって事?」
差し向かいで難しそうな顔で譜面に赤でチェックを入れる作業に没頭していたさらさは不審げに眉を顰める。
「うーん。第一同じ業界にいても接点がないんじゃ、姿を見る事すら叶わないんだよね」
「…全然聞いてないわね。じゃあ誰なのよ。そのアイドルって」
「支倉翔」
「えー!?あんたもみなみと同じなの?アレは普通に無理じゃない?難攻不落というか…現実的じゃないわ。それにあそこの事務所、恋愛禁止って有名じゃない」
「だよねー。はぁ…でも何とかして会ったり出来ないかなぁ」
陽菜は机に突っ伏して足をバタバタさせている。
「珍しいね。あんなに一十先生、一十先生煩いあんたが」
「先生は今でも大好きだよー。私の最初で最後の男だもん。支倉翔はね、ムカつくからまた会いたいの」
「…ますますわからないわ。……あ、でも私、接点あったかも」
「えっ、嘘!マジ?」
急にガバっと上半身を起こした陽菜に、さらさはやや顔を引き攣らせながら頷いた。
「えぇ。支倉翔ってボイストレーナーの資格を持っていて、週3回くらいはボイトレやってるのよ。そこにウチの旦那が通ってるの思い出したわ」
「え、そうなの?つか何か自然な旦那呼びにドキドキしちゃった。すっかり人妻だねぇ」
「バカ言わないの。紘太に話だけでも通してもらう?まぁ、陽菜は一十さんの生徒みたいなものだからトロエーの中でも一番歌は上手いし、必要ないと思うけど」
「行くっ!絶対いく!ねぇ、リーダー、お願いだから紹介して」
陽菜はさらさの両手を握り懇願する。
「何か必死ね。話は通しておくけど、あまりアイドルなんかにのめり込まない方がいいわよ。特に支倉翔に関してはファンも過激だし、下手に刺激するとこっちが危ないわ」
「う…うん。わかった」
☆☆☆
夜。
一人きり、部屋で翔の歌を何度も聞く。
高く伸びやかな歌声は無垢な少女のようなのに、どこか力強い。
ストレートな恋心を切々と歌い上げるその歌詞は全て彼による作詞だ。
特に後半へ向かうサビは何度も細かく転調し、その度にキーが高くなっていく。
かなり高度なテクニックが必要な歌唱だ。
瞼を閉じて聴いていると、不意にステージ上で彼が愛らしい笑顔で「大好き♡」と囁く映像が陽菜の脳裏でパッと弾けるように浮かんだ。
「あー、ダメダメ。支倉翔なんかに毒されちゃ」
陽菜は頭を抱え、そのイメージを振り払う。
気付けばもう何回リピートしたのかわからないくらい同じ曲を聴いていた。
おまけ(…という名の自分用の覚え書き)
支倉翔
本名 神崎蓮
何故全く違う本名があるのかは、今後書くので今は伏せておきます。
身長168㎝(公式サイト上では170㎝)A型、3月18日生
神奈川県出身 27歳
口は悪いけど正直で優しい。
誕生秘話としては、アイドルがアイドルを好きになるお話を書きたかった。それだけです。
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