第202話

数日後。

夕陽は笹島と怜の三人で食事をしていた。

みなみは先週から夏期から始まるドラマの撮影に入った為、ここにはいない。


ドラマの沖縄が舞台なのでしばらくは沖縄と東京を行ったり来たりの生活になるようだ。



「で、二人の結婚話はどこまで進んでるの?」



レモンサワーを一口含み、怜は上機嫌で夕陽に現在の近況について探りを入れてくる。

ここは夕陽も一応慎重に答える。



「とりあえず向こうの母親とは会ったよ。式が終わるまであいつと一緒に暮らすと言ってるから頃合いを見てウチの親にも会ってもらおうかと考えてるところかな」



みなみの母親、仁美はあれから夕陽の休みに不動産巡りに付き合ってくれるようになったのだが、中々手頃な物件は見つかっていない。


最近はただ二人で帰りに中目黒にあるフルーツパーラーでお茶しに行っているようなものだ。



「大変よねぇ。秋に間に合うの?」




「間に合わせますよ。最悪入籍だけでも構わないんで」




夕陽はビールを煽る。




「で、お前らはどうするんだ?」




「ふぁっ?何が」



焼き鳥にガッついてた笹島は不意に話を向けられて困惑気味に顔を顰める。




「だから結婚だよ。いつかはするんだろ?」




すると笹島は怜の方をチラリとみる。




「こっちはまだ当分ないかな。俺はまだアイドル乙女乃怜を推していきたいし、見ていたいもんね」



「耕平くん……」



怜は感激したように瞳を潤ませて二人のムードを作り始める。




「あー、はいはい。でも早乙女さんはそれでいいの?結婚したがってたみたいだけど」




去年、怜は当時交際していた恋人が他の人と結婚した事を知り、心を病んでしまった。

彼との結婚を強く望んでいたからこその落胆だろう。

だけど、今の怜は違うと首を振る。




「今はね、ただ目先の幸せより迷惑をかけた皆に恩返しをしたいの。事務所や関係者も勿論、ファンとそして耕平くんにも。だからもっと今の仕事を頑張りたいって思ってる。全てやり切ったら、ただの早乙女莉奈に戻って本当の私を貰ってもらうの」



「り…莉奈さん♡」



怜は幸せそうに隣の笹島を見つめた。



「へ…へぇ。何か凄いな」



とりあえず当面の間、怜は結婚はせずにアイドル業に専念するという事だろう。

これは二人で納得して出した答えらしいので、夕陽としては特に何も異論はない。


アイドルとそれを推すファンが出した新しい道なんだろう。



「それにしてもあのお子ちゃまみなみんが真っ先に人妻か〜」



「ちょっと耕平くん。声気をつけてよ」



「あぁ、そうだった。現役のアイドルが電撃結婚ってあんまりないからさ。ちょっとそれが自担だったら貢いだグッズ破壊して寝込むレベルだなと思っただけ」



「当人からすると電撃でもないんだろうけどな。まぁ、その気持ちは少しわかるかな」



夕陽は遠い目をした。

そして今まで数多くの推しの交際発表や入籍発表を見て悶えていた笹島の姿を思い出した。


その時、笹島は店の横にある大型ビジョンを見やった。

画面には「関東梅雨入り」の文字が踊っている。



「うわぁ、もう梅雨入りだってさ。天パにはキツい時期がまたやって来たよ」



笹島は自らのアフロ頭に手を突っ込んで嘆く。



「昔みたいにストパかければいいだろう?」



夕陽がからかうように言った。

途端に笹島は情けない顔になる。



「いやあれはもう…中学の黒歴史というか」




「え、何々?それ知りたい」



「莉奈さんは知らなくていいから!」



その時だった。

ニュースを読み上げていたキャスターが神妙な顔つきで渡された紙片を手に取った。




「番組の途中ですが、ここで速報が入ってきました。女性アイドルグループ、トロピカルエースのリーダー、森さらささんが入籍した事をたった今発表されました」




「はっ?何だそれ」



三人は揃って顔を見合わせた。



「嘘だろう?」



笹島はすぐにスマホを立ち上げ、ニュースをチェックし始め、怜はただ凍りついたように両手で顔を覆っている。


その夜、突然SNSで発表された人気アイドルの電撃結婚のニュースは日本中を駆け巡った。
















早いなぁ…。

でもこの構想は前からありました。

さらさ姐さんは、きっと闇堕ちしたような面倒臭いメンズを好きになるはずだと。


で、こうだと決めたら決断は早いと。

で、気になるお相手は番外編を見て頂けるとすぐに判明します^_^


怜の男性版みたいな感じですかね。






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