第199話
「ねぇ、森さん。結婚式って式場とかどうやって予約すんの?で、何ヶ月くらい前がいいの?」
ステージ用の基礎メイクをしながら、みなみは隣でパックをしながらスマホを眺めているさらさに無邪気な顔で話しかける。
「私が知るわけないでしょ。何でも知ってるお婆ちゃんの知恵袋みたいに思ってない?」
するとスマホを乱暴にカタンと机に置いて、さらさが鋭い顔で噛みついて来た。
「あわわっ、そっかそっか。森さんもまだ結婚はしてないんだもんね。うん。じゃスマホで調べてみるかな〜」
その怒気に若干恐怖を感じたみなみは慌ててさらさから離れ、自分のスマホを手に取る。
するとさらさのため息が聞こえてきた。
「ちゃんと準備は順調に出来てるの?私もこれといった知識はないけれど、結婚の手続きとかってどれもそう簡単なものじゃないのよ」
「う…うん。それはもう耳タコみたいな」
それは夕陽にも同じ事を再三言われてきた。
二人は似たところが多いとみなみは心の中で思った。
「じ…じゃあさ、親には言わないとヤバめ?」
さらさは呆れたようにみなみの顔を凝視してきた。
みなみは咄嗟に身構える。
しかし意外にさらさは冷静だった。
「……別に未成年同士じゃないなら法的には親の承諾は必要ないけれど、余程の事情がない限り報告はするべきじゃないの?第一結婚式にも呼ばないつもり?」
さらさは軽く息を吐いた。
一応、みなみの両親が離婚している事は知っている。
それに自分も似たような環境なので、何となくだがみなみが親に言いにくい気持ちは理解出来た。
「それなんですよね〜。最悪夕陽さんのご両親だけいれば良くね?的な感じで」
「……まぁ、それは私が口を出すべき事ではないけれど、せめて父親か母親どちらかには報告しなさい。きっと喜ぶはずよ。それにどちらか一方にでも言えば、自分で言わなくても後から伝えてくれると思うわ」
「う…うん。そうだね。考えてみる」
みなみはまた深いため息を吐いた。
彼が好きだから結婚したい。
その気持ちさえあれば他に必要なものは何もいらないと思っていた。
結婚すると世間へ向けて発表すれば、その日から二人は夫婦と呼ばれるものに自動的にクラスチェンジするそんな風に考えてすらいた。
だけど、皆その発表に漕ぎつける前に両家の挨拶や新居、結婚式へ向けての式場の見学やドレスの試着、出席者、料理の内容等諸々の準備、それと同時に入籍する為の住所変更や戸籍の手続き、婚姻届や指輪の準備等、沢山の煩雑な手続きクエストに挑んできたんだと今更ながらに気付いた。
「結婚ってする前も、する時も、した後も大変なんだね…」
「そうね〜。親に任せられるところはいいけれど、頼れるのが彼だけなら大変よね」
さらさもぼんやりと想像してみたのか、苦い顔つきになった。
「今の課題は親にどうやって報告するかだなぁ」
みなみのぼやきにさらさは内心、いいわね、親に王子と結婚するなんて幸せ報告出来るなんて…と諦めの悪い事を考え、すぐに頭を振った。
「私も頑張らなくちゃ…ね」
「え、森さんもしかして今狙ってる人がいるんですか?」
その瞬間、パッとさらさの脳裏にある男性の顔が弾けるように浮かんだ。
自分でも無意識だっただけに、そのイメージは鮮烈でドキドキした。
「あっ、いや、例えだからね。別に何もないし」
つい気合いを入れるつもりで思った事が声に出ていたらしい。
さらさは慌ててそれを誤魔化し、今一瞬頭に浮かんだ顔を必死にかき消した。
一気に血液が沸騰したように顔が熱い。
そう、さらさもまた新しい恋をしようとしていた。
さらさの新しい恋は番外編の方で読めます。
本編と時間軸がリンクしてるので、そちらもよろしくお願いします〜。
詳しくは番外編でやるので、この本編ではさらさの恋の結果だけが語られる予定です。
さて上手くいくのかいかないのか…。
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