第198話

「そういえばさ、結婚式ってやんの?」



それから数日経過した週末。

今日はようやく怜の引っ越しの日になった。


荷物の大半はもう搬入済みなので、その荷解きを笹島とさらさ、そして夕陽で行う事になった。


部屋の主人である怜は朝から仕事で不在だ。


シューズボックスに様々な種類の靴を収納しながら、少し作業に飽きてきたのか笹島が声をかけてきた。



「それなんだよな。取り敢えず籍だけ入れて、式はやるとしたらもう少し後で内輪だけの簡素なやつを考えてる。あいつが忙しいようなら写真だけでもって感じかな」



夕陽は少し眉を寄せながら、梱包された食器を丁寧に並べながら答える。



「マジか。そういえば指輪はどうすんの?芸能人にプレゼントするんだからえげつないくらいデカいダイヤとかじゃないとマズいの?」



「バカね。いつの時代のイメージしてるの。そりゃあ結婚指輪にたいする価値観は人それぞれだけど、あの子はそんなの気にしないと思うわ。だから気持ちのこもった素敵な指輪なら何でもいいと思う」



寝室の方で巨大なサイズの下着類を見て、顔を引き攣らせていたさらさも会話に参入してきた。



「あー、はい。それもありますよね。婚約指輪と結婚指輪は親の知り合いで宝飾関係をやってる人がいて、そこで融通してもらおうと思ってるんですけど…」



夕陽は歯切れ悪く俯いた。


結婚はとにかくお金がかかる。

式をやるなら最低でも200万から300万は必要だ。


今はもっと低予算のプランはあると思うが、相場としてはこんなところだろう。


式をやらないにしても指輪や写真用の衣装、新居、それに付随する家具等考えたらキリがない。


まだ社会人になって二年やそこらの夕陽はしっかりと将来を見据えてコツコツ貯蓄はしているが、まだまだ乏しい。


だから式を挙げるなら親を頼らなくてはならない。


親も当然そのつもりで準備はしているとおもうが、夕陽としては妹の今後も考えて、あまり頼りきりになりたくはないのだ。


みなみは費用は全額自分が負担するから後でどれだけ要るか教えてとメッセージが来ているのだが、それにも甘えたくなかった。



「はぁ……。全て一人でってのはやっぱり無理があるか。俺一人で我を張るのもなぁ」



夕陽はダイニングテーブルに突っ伏した。



「夕陽。困ったら皆を頼れよな。そんなの工夫次第で何とか出来るよ。金じゃなくて人脈を使うんだよ」



「笹島?」



笹島はカッコよく笑った。

だが、その視線はさらさの手元の下着に強く注がれていた。



「セリフと視線の先が一致しないが、今の言葉は嬉しいよ。ありがとう。笹島」



「そうね。手作りの結婚式もいいじゃない。私も協力するから頼ってね。王子」



「森さんもありがとうございます。でもそろそろ本気で王子はやめてください」



「あ、あははは。そうね。ついクセでね。あ、お昼でも食べようか?怜がピザとお蕎麦を準備してくれたのよ」



気まずさを隠すようにさらさが立ち上がる。

そろそろ荷物も片付いてきた。

後は怜だけでも大丈夫だろう。



「おーっ、ミスマッチな組み合わせのチョイス、莉奈さんらしくて最高〜♡」



「笹島…」



キッチンで準備を始めたさらさの後ろ姿を見て、夕陽はしみじみと呟く。



「ところで、森さんって暇なのかな…」



「………王子、聞こえてますからね」



「!」






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る