第184話

「ねぇ、笹島さん。夕陽さんのタイプってどういう人?」



ここは旅館の広間。

他の皆はまだ風呂から戻っていない。

烏の行水レベルの早風呂派な笹島とみなみが先に戻って来て、こうして顔を突き合わせているのだ。


ちなみに当然ながらもう笹島はアイマスクを外している。

その時の彼の混乱ぶりは筆舌に尽くすのだが、そこはさっくりとカットされた。



「は?何をおっしゃる。夕陽の彼女さん。そんなの貴方に決まってる」



軽い世間話のように切り出されたみなみの問いかけに、笹島は困惑しながらも応じる。




「うーん。そうなのかな。何かね、夕陽さんのお母さんに会って来た時、今まで夕陽が一緒にいた女の子の中にはいなかったタイプだわって言われたんだけど…。じゃあ、一体どんなコだったんじゃ〜って思ったの」



みなみはムッとしたように頬を膨らませる。

どうやら妬いているようだ。

そんな事、本人に聞けばいいのにと思いながらもお人好しな笹島はどんな言葉をかけていいのか思案する。



「うーん、タイプって言ってもなぁ。俺は夕陽とは高校からだけど、その歴代の彼女達のタイプがどうとかって気にする必要ないと思うよ?彼女たちも一人一人違う人間なんだからタイプって一括りに出来ないし」



「…そうなのかなぁ」



「そ。それにさ、俺みなみん推しじゃないのが申し訳ないけど、もしみなみんが彼女だったら絶対嬉しいし、自慢の彼女になると思うな。きっと

夕陽もそう思ってるよ」



「笹島さん!」



みなみの顔にようやく明るさが戻ってきた。



「笹島さんって、全部が絶対無理って感じだけど、時々イイ事言うよね。そういうトコちょっとだけ尊敬しちゃうな」



「あははは…うーん。逆に俺の方が落ち込みそうなのは何故?」



笹島は力無く笑った。




        ☆☆☆




「はー、男湯ってこの隣なのよね」



こちらは屋外浴場。


身体を洗い、湯に数分身体を浸しただけで撤退したみなみ以外のトロピカルエースのメンバーはこちらで湯に浸かっていた。


みなみは熱い湯にずっと浸かっているのが苦手なタイプだった。



さらさは岩風呂から隣をチラリと切なげな目で見ている。



「ちょっと森さん。まさか変なこと考えてないでしょうね」



豊かな胸元を両手で覆いながら怜は若干引き攣った顔でさらさを見た。




「変な事って何?別に何も考えてなんかないわよ。ただちょっと隣はどうなのかな〜って、話しかけたら反応返ってくるのかな〜って、で、こっち来いよとか、ダメよとか……」



「…考えてるね。ボス」



手拭いを絞りながらエナは半眼でさらさを睨む。



「ぷっ…大体何よソレ。こっち来いよとか、内風呂じゃないんだから完全にアウトに決まってるでしょ。というか、あの王子さんにそんな度胸ないと思うよー?」



陽菜は腹を抱えて笑い出す。



「ちょっと待ってよ!何でそこで王子が出てくるのよ。べべべべべ別にあの人なんて関係ないし」



何故か大慌てでさらさは湯に潜る。

赤くなった顔を見られたくないのがバレバレである。



「ハイハイ。でもさぁ、ちょっと覗いてやってびっくりさせても面白いかも♡」



陽菜が嫌な笑みを浮かべている。

何故か彼女はこういう子供っぽいイタズラが大好物なのだった。



「あっ、やろやろ♪で、みーちゃんの彼氏さん驚かせてやろう」



何故かエナも乗り気で拳を突き上げる。



「いや待ってよ、何でそうなるのよ」



「…じゃあリーダー、後は頑張って。あたしは上がるから」



そう言って怜はザブリと浴槽から立ち上がり、モデルのようなウォーキングで浴場から出て行った。



「もう、どうしたらいいのよ〜っ!」



さらさはこの時程、このグループのリーダーになった事を後悔した事はなかったと唇を噛み締めた。














折角の温泉なので少しお約束なネタで遊んでみたい…そんな回です。








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