第183話
「おぉっ、平坂ななせ一般男性と結婚だって。昨日、デザクエ出てたけど全く普通に恋バナしてたよな」
こちらは初詣でバッタリ会った夕陽たちの同僚、三輪と佐久間である。
近所に住んでいる事もあって、お参りをする神社も被る。
二人はお参りを済ませた後、そのまま帰るのも味気ないと、近くのラーメン店に入った。
ラーメンを待つ間、手持ち無沙汰にスマホを弄っていた三輪は芸能ニュースに思わず反応してしまった。
「え、誰それ」
佐久間の方は全く興味がないのか、ピンときていないようだ。
「アレだよ。「この恋が最後の恋だから」に出てたアイドルの平坂ななせ」
「へぇ。知らないけどなぁ。つか三輪さぁ、段々笹島みたいになってないか?妙にアイドルに詳しくなってるし」
「げっ、そういえば最恋をオススメして来たのも、平坂ななせの話をよくしてたのも全部笹島だ。ヤバっ。僕、完全に笹島に洗脳されてるよ」
思わず三輪は身震いした。
佐久間の方はそれを見て朗らかに笑っている。
「ははっ。まぁ、いいんじゃないの?見ている分には害はないし。でもさ、最近あまり笹島、アイドルの話しなくね?」
そこでふと思いついたように佐久間が視線を上へやる。
「あれ、確かにそうかも。あれかな、彼女が出来たからとか?」
彼女いない歴史=年齢という不名誉な肩書を保持していた笹島に最近初の彼女らしき存在が出来た事は二人とも薄々気付いていた。
本人も否定はしていない事から、何となく事実なのだろうと思っているのだが、まだはっきり報告されたわけではない。
「そうかもね。あんなにアイドルアイドルギャルギャル言ってたのが、最近はあまり言ってないよな」
三輪も大きく頷いた。
「あいつの彼女の事って何か知ってる?」
「いや。何も。というか本当にいるのかな?写真とか何も見せてくれないし。あいつならめっちゃ自慢しそうじゃね?」
佐久間も不思議そうに頷いた。
何せ長い事彼女が欲しいと周囲に言っていた笹島だ。
当然彼女が出来たらもっとアピールするだろう。
その笹島が何も言わないのは不自然に思えた。
「やっぱり妄想の世界の彼女か」
「かもなー。そういえばさ、夕陽の彼女もどんな子か知らないなぁ。写真見せてくれないし、何も話してくれないな」
やがて頼んだラーメンが運ばれて来た。
二人はしばらくラーメンに集中する事になった。
「あのさ、夕陽の彼女も妄想って事はないか?」
佐久間が箸を止めて、チラリと三輪を見た。
三輪額から汗が流れた。
「まさか。あいつがそんなマウント取ったりしないよ」
「だよなー。うん。でもさ、男ってやっぱ彼女の事って大っぴらに話したりしないのか?」
佐久間は肩をすくめる。
「わからん。俺も付き合った事ないし」
「僕はもう昔の事だし、別にその時も恥ずかしくて誰にも話さなかったなぁ」
「………」
「………」
言ってみて何となく虚しくなってきた二人は再びラーメンを啜った。
「俺たちも今年は25か…」
遠い目で佐久間はラーメンスープを飲み干す。
「そうだな。今年辺り誰から結婚するかもしれないな」
「…うわっ、何か全然想像出来ないよ」
二人は笑い合った。
三輪言った事は果たして実現するのだろうか。
だとしたら一体その先陣をきるのは誰になるのだろうか。
「さて、帰るか」
「だな」
ラーメンを食べ終えた頃合いをみて、三輪がポケットの財布を探る。
「あ、そういえば笹島の分の御神籤、代わり引いて来てって言われたのあったんだ」
「あぁ、あいつ何で来なかったんだろうな」
「うん。電話しても出なかったし、メッセージも既読つかなかったんだ」
そう言って三輪は笹島の御神籤を取り出した。
「なぁ、ソレ見てみないか?」
佐久間がやけにニヤニヤした顔で三輪手元を見ている。
「いや、勝手にあいつより先に見るの悪くね?」
「いいよそんなん。どうせ今頃、彼女と楽しい正月過ごしてるかもしんない奴なんてさ」
「おい、さっきまで妄想かもしれないって言ってたくせに。まぁ、いいか。これただ折り畳まれてるだけだし」
そう言って三輪は笹島の御神籤を開いてみせた。
「あ、大凶だ…」
「まじか!確かあいつ去年もだったよな」
「縁談……望みなし」
二人は顔を見合わせた。
「後で笹島に何か買ってやろうか」
「そうだな」
どちらからともなく立ち上がり、二人はラーメン店を後にした。
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