第180話

「真鍋くん、真鍋くん。パチパチ飴食べる?それともラムネがいい?」



「……いえ、お気遣いなく」



あれから数時間。

大物プロデューサー、秋海棠一十による怒涛の拉致事件で自宅から車に乗せられ、羽田空港へ。

その間、彼からはどういった目的で熊本へ向かうのかの説明は一切ナシ。

不安感は増す一方だ。


車から降りるとすぐに飛行機に搭乗し、飛行機は一路、熊本へ飛んだ。

当然飛行機のクラスはファーストだ。

さすがはVIPである。

なので搭乗に関してもそれはスムーズだった。


こんな異常な状態の笹島ですら笑顔で迎えれるのだから驚いたものだ。

東京から熊本へは2時間半程で着く。


その道中、隣の笹島はアイマスクとヘッドホン装着でずっとyo-yo、heyhey!騒々しい。



「…笹島、聞こえてないだろうけど、静かにしろよ」



夕陽は一十に手渡されたパチパチ飴をノリノリな笹島の大口にサラサラっと流し込んだ。



「☆*×○△♡ーーーーー!?」



たちまち辺りにブドウのフルーティーな香りと何かが爆ける音が笹島の口から発せられる。



突然の衝撃に悶絶する笹島。

乗客はファーストという声もあって数える程ではあるが、そんな彼らの目は氷のように冷たかった。



「ぬぁぁっ、これパチパチ飴じゃないっすか!超久しぶりに食ったな。あー、でも俺、わたパ○派なんすよ」


「笹島、どうせ聞こえてないだろうけど、わた○チはもう製造中止になってるからな」



「あははは、本当にキミ達は面白いねぇ。キミ達で何かユニット組めたらヒットしそうな予感がするよ」



一十が膝を叩いて呑気に笑っている。


夕陽は頭を抱えたくなってきた。



「やめて下さい。そんなしょうもないユニット。絶対炎上しますよ」



「えー、そうかな?面白いと思うんだけどなぁ」



そう言って一十は真ん中に穴の開いたラムネを口にし、ピーピーと音を出す。

ちなみにここは飛行機の中。

つまり公共の場なのだ。

全く自由な人である。



「あの…何で、そんなに駄菓子を持っているんですか?」



一十の横には大量の駄菓子の入った紙袋がある。



「あぁ、これね。最近コレにハマってるんだ。だって見てよどれもカラフルでファンキーじゃない?」



「……あぁ、それで笹島の事も気に入ってるんですね」



夕陽は深い溜め息を吐いた。

その間、笹島は口からパチパチ鳴らし、一十はラムネ菓子をピーピー鳴らすという地獄の空間が出来上がった。



        ☆☆☆



「はぁ、どっと疲れた」



夕陽が全身に疲労感を纏い、無法地帯となった地獄空間から抜け出した頃には陽はすっかり傾き、夕方になっていた。


空港から出て、タクシーに乗り込む3人。

薄暗くなった道をホテルらしき場所へ向かう。



「秋海棠さん。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか?どこへ何をしに行くのか」



タクシーの中、痺れを切らした夕陽はついにそう切り出した。


隣の笹島は寝落ちしていた。

ヘッドホンの曲はバラードになったらしい。


必死な夕陽を見て、一十はにこやかにこちらを見た。



「何って。アレだよ」



「アレ?アレとは…」



一十は幸せそうな笑顔を浮かべた。




「結婚式だよ♡」



「はぁぁ?ちなみに誰と誰の?」



まさかと思うが、夕陽はチラリと隣の笹島を見た。

笹島は呑気に涎を垂らし、寝入っている。

だが、一十は首を横に振る。



「キミとみなみちゃんだよ。おバカさん」



「はぁぁぁぁっ!?」



何やらとんでもない事が起こりそうである。












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