第179話「正月休みにダラダラしていたら、突然超有名プロデューサーに拉致られた件」
気付いたら年が明けて3日が過ぎていた。
あのクリスマスにあったトロピカルエースのライブから今まで、ついだらだらと過ごしてしまった。
ちなみに今年は一人になって色々考えたかったので実家へは帰らなかった。
一応心配した母親からは年越し蕎麦やお節料理、餅等が入った荷物を手渡されたので、年末年始はそれで何も準備もする必要もなく楽に過ごす事が出来た。
夕陽はその母親お手製のおせちを摘みながらビールを飲み、実に怠惰な正月を過ごしていた。
テレビ画面の中では、お笑い芸人達が様々な芸を披露している。
大体毎年お正月のテレビ番組とはこんなものだ。
夕陽は退屈なテレビから目を逸らし、スマホで番組表を検索する。
「また初笑いバトルあるよ。あ、トロピカル…いや違った。トロ火で作るシチューか」
みなみと付き合うようになって、気付けばトロピカルエース関連の単語に異常に反応する体質になってしまった。
もうそれは条件反射のように反応してしまう。
今も「トロ」という単語だけで目を見開いてしまっていた。
「バカだよな…俺。笹島でもあるまいし」
そう一人呟いてテレビの電源を切った。
笹島は大晦日まで泊まっていったが、さすがに正月には帰って行った。
そのおかげで静かな正月を過ごせたと思う。
みなみからの連絡はまだない。
どうなっているのか気になって何度か電話やメッセージを送ったが、みなみは電話にも出る事もなく、メッセージも一向に既読にならなかった。
「ちぇっ。そんなに忙しいのかよ…」
何の反応もないスマホを見つめ、夕陽は何度目かになるため息を吐いた。
その時だった。
不意に来客を告げるインターフォンが鳴った。
「ん?誰だ。美空かな…」
このタイミングで訪ねて来るのは家族くらいだろうか。
何か妹が家から持ってきたのかもしれない。
そう思った夕陽はのそりとソファから立ち上がり応対する。
「はい。どちら様……ん?」
「やぁやぁ、真鍋くん。ハッピーニューイヤー♡」
やけに間延びしたのほほんとした声がインターフォン越しに聞こえる。
画面には金髪に大きめのサングラス、黒いマスク姿の男性?らしき人物がこちらへ向けて「おっはー」していた。
怪しい事、この上ない。
常人なら即座に管理人に連絡しているレベルの怪しさだ。
だが夕陽にはその声には聞き覚えがあった。
「もしかして……秋海棠さん?」
「おー、大正解〜。凄いな。キミ」
夕陽は絶句した。
まさかこんな正月休みど真ん中に超有名プロデューサーの秋海棠一十が一般男性の家を訪ねて来るとは思いもよらなかった。
彼はみなみの所属するトロピカルエースの総合プロデュースをしている大物だ。
「いっ…今開けます!」
慌ててエントランスのオートロックを解除しようとすると、彼はそれを片手で制する。
「あぁ、大丈夫だよ。キミがこっちに降りてくれれば」
「あっ、そ…そうですか。ではすぐにそっちに行きます」
夕陽は慌ててスマホをポケットへ入れ、コートを羽織り、エレベーターで降りる。
エントランスには派手なコートに金髪が目立つ長身の男性が立っていた。
見間違える筈ない。
彼が秋海棠一十だ。
その彼は夕陽の姿を見つけると、スマートに片手をあげた。
モデルか俳優のような佇まいだ。
「やぁ、早かったね」
「いぇ、スミマセン。お待たせして」
肩で息をしながら夕陽は何とか息を整える。
一体彼は何をしにここへ来たのだろうか。
みなみが絡んでいるのだろうか。
一十はゆっくりとサングラスとマスクを外すと、にっこりと優美に笑った。
「じゃあ行こうか♡」
「は?ど…どこへですか」
「どこって熊本〜。さぁさぁ乗って乗って」
「くくく熊本ぉぉっ!?ちょっ、待ってください。何で急に熊本なんて…俺、準備も何も」
どうやら急に一十の一存で熊本へ行く事になってしまったらしい。
突飛な人物だとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。
「いいからいいから♡熊本で皆、キミたちを待ってるよ」
「たち?たちって…あのっ…」
いつの間にか夕陽の周りには屈強な男たちが脇を固め、強引にガシッと両腕を掴まれ、外に停まる車へと運ばれていった。
「マジでなんなんすか、これ…あ?誰か他にも乗ってるんですか…って、コイツ笹島?」
広い車の中にはもう一人同乗していて、よく見るとそこにはアイマスクとヘッドホンを装着させられた男性がノリノリで頭を振っていた。
ヘッドホンからはシャカシャカとヘビメタ調の音楽が漏れている。
そのヘッドホンから飛び出すアフロは笹島だと一目でわかった。
だが笹島はアイマスクと大音量のヘッドホンでこちらに気付かず、ただ狂ったようにノリノリにノリまくっているだけだ。
「あぁ、ソレね。怜ちゃんのリクエストでそうなったらしい」
助手席に乗り込んだ一十はサラリととんでもない事を言った。
「な…これ何のバラエティ番組っすか」
「んー?ボクもわからないな。まぁ、行けばわかるよ。きっとね」
あくまで呑気な声に夕陽はガックリと肩を落とした。
こうなったら彼に従うしかないようだ。
横でノリノリな笹島が正直恨めしかった。
ストーリー的にはあのクリスマスライブでもう完結にして大丈夫なんですが、もうちょっと遊んでみたくなりました。
まだお付き合いして下さる方はもう少しお楽しみ下さい。
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