第176話「キミといつまでも」

みなみは大きく息を吸い込むと、客席へ向けて深々と頭を下げた。


その瞬間、観客たちは何かを察したのか一気に静まり返る。


辺りは微かな物音と、何かを期待するような弾んだ息遣いのみが聞こえるのみだ。


夕陽も息を顰め、それを見守る。



「みんなー、メリークリスマス!今日は来てくれてありがとう。楽しんでくれてますかー?」



みなみの問いかけに客席が激しく反応する。

隣の笹島も野太い声でペンライトを激しく振り回している。



「みなみんのソロトークって初めてだよね」



笹島が興奮気味に横の夕陽に声をかけてきた。



「そうなのか?」



「まぁね。みなみん、あまりMC得意な方じゃないみたいで、いつもは他のメンバーに話振ってもらって何とか回してるって感じだったのに、今日は大したもんだよ。めっちゃ堂々としていてカッコいい」



「へぇ…。あいつあんな家では喋るのに」



普段夕陽の前でのみなみは、それはもうよく喋る。

それも言わなくてもいい事まで。

そんなみなみが、公の場ではトークが苦手だとは意外だった。

会場は普段とは違うノリのみなみを見て、更に盛り上がる。


その声援を受けてみなみは嬉しそうに笑った。



「ありがとう!本当にありがとう。皆。えっとね、最初はバラエティー番組での露出から始まった私達トロピカルエースですが、こうやって歌でも認められて、ここまで続けられたのも、全部皆のおかげだよ」



再び大きな声援が巻き起こる。



「そんな皆に今夜はクリスマスイブという事で、私たちから皆へサプライズプレゼントがあります!」



そしてステージ袖から真新しい衣装に着替えた他のメンバーたちもやって来た。

会場が「おおっ?」「何?」という疑問の声と、「新曲の発表?」等、様々な憶測が飛び交う。


夕陽も首を傾げる。

その時、不意にみなみが事前に夕陽に渡してきた封書に手が触れた。



(そういえばあいつ、MCの時に見てくれって言ってたよな…。一体何なんだろう)



一瞬、それを開けてみようと思ったが、どうせここで開いても薄暗くてよく見えないだろうし、それよりも今はみなみの発表の方が気になる。


夕陽はそれを再び鞄に仕舞い、ステージの方を向いた。



「えー、先ずは皆さんお手元の入場前に配られた封書を出して下さい♡」



すぐに会場内がざわつき、一斉に何かを探すようなガサガサという音が響く。



「あぁ、ようやくコレの種明かしね。何だろうな?ほら、夕陽も準備しろよ」



笹島はそう言って勝手に夕陽の鞄から封書を取り出して手に取らせた。



「おいおい、何なんだよ…コレは違っ」



慌てて説明しようと思ったのだが、すぐにさらさがステージ中央へ戻ってきたので、夕陽はムッとしながらも口を噤んだ。



「準備出来ましたか〜?では中を確認して下さい♡」



すると会場内の照明がやや明るくなり、すぐに紙を破る音が響き渡る。


隣の笹島も同様に封書を開けている。

夕陽はそれを黙って見守っていた。

正直、それが何なのか興味はあった。


やがて中から一枚の薄い紙が出てきた。



「「キミといつまでも一緒にいたい」…あー、新曲だ!次の新曲、ウェディングソングなんだ。あ、俺のはエナちだった。推しじゃなかったけど、お宝アイテムには変わりないか。夕陽はどうだった?」


封書の中は婚姻届を模した新曲のプロモーション用のノベルティだった。


一枚目には妻の欄に各メンバーの名前が印字されたパロディの婚姻届。

裏には新曲の発売日時や新しいツアーの予定等が記載されている。


メンバーはランダムで入っているらしく、笹島は推しの怜ではなく、エナの婚姻届だったようだ。


で、二枚目には本物の婚姻届が入っていた。

トロピカルエースの新曲に合わせたオリジナルデザインのもので、どうやらこちらは本当に役所に提出出来るものらしい。

当然こちらは全て空欄だ。


突然のサプライズに会場は再び盛り上がった。



「皆〜、年明けすぐに新曲出すよ。テーマはウェディング。衣装もそれに合わせて豪華なものになるから期待していてね♡それから、二枚目の婚姻届は実際に使えるヤツだから、今日来てくれているパートナーと、新しいステップへ進むのを迷っているカップルへ向けたサプライズプレゼントにしてもいいし、自由に使って下さい」



わぁ〜っと会場内が盛り上がる。

そんな中、夕陽は絶句していた。

封書は開封され、中身は笹島たちと同じくノベルティの婚姻届と実際に使える婚姻届が入っていた。


それは同じだった。

だが問題は二枚目だ。



「これ…マジのヤツじゃ」



「は?夕陽。どしたん?」



明らかに様子がおかしい友人の様子を見て、笹島が震える手元を覗き込んできた。

そしてその笹島も絶句した。



「え?うぇぇ?これ、マジもんの婚姻届じゃんか」



二枚目の婚姻届には、みなみの名前が実際に記入されていた。

それも肉筆で。


つまり夫の欄に夕陽の名前を記入し、役所に提出すればすぐにでも婚姻が成立する状態なのだ。



「あいつ、一体何を考えてるんだよ」



添えられたメッセージには「キミといつまでも」と書かれていた。













スミマセン。


やっぱり何か読み返してもこの回、面白くなくてワクワクもしないからほとんど変えました。


こっちの方がまだいいかなというレベルですが。









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