第174話

クリスマスに開かれるトロピカルエースのライブは年内最後のライブともあって、相当な賑わいの中にあった。


このライブは今年一年を通して行われたツアーの集大成となる追加公演になる。

当然チケットも相当熾烈な争奪戦となり、一時ネットニュースにも話題になったくらいだった。


裏を返せばそれくらいトロピカルエースが成長したという事だ。


夕陽は今、会場の中でそれをしみじみ思った。

ここはあの日、笹島に付き添いで初めて参加したトロピカルエースのライブ会場だ。


奇しくも同じ会場でのライブに何かわからないが胸が騒ぐ。


あの日、みなみの浮かべた表情の意味は何だったのだろう。

そして渡された封筒の中身は…。



「あれ、夕陽の封筒だけちょっと形違くね?」



その時、笹島がいつの間にか夕陽の手元を覗き込んできた。

どうやら無意識にカバンから取り出していたようだ。

慌ててそれをカバンに仕舞う。



「な…何だよ。勝手に覗くなって……ん?俺の封筒が違うってなんだよ」



「いや、さっき入り口でスタッフが配ってたじゃん。MCの時に使う小道具だって」



そう言って笹島は自分の封筒をヒラヒラと夕陽の目の前で振った。

それは夕陽がみなみから貰ったものと似ているが、若干素材が違う感じがした。



「何だそれ。俺は貰ってないけど?」



「は?マジで?夕陽、ぼんやりしてたから受け取り損ねたんじゃね。じゃあそれ何なん?」



「いや…これは関係ないヤツだと思う…わからんが」



笹島はわけがわからないという様子で首を傾げている。


しかし小道具とは一体何なんだろう。


後ろを見ると夕陽の家族も同じ封筒を持っているのが見えた。



「何か家族が同じライブ会場にいるの、微妙なんだけど…」



それを見て夕陽は若干萎えた表情でため息を吐いた。

このライブに夕陽の家族を呼び寄せたのはみなみだという。

母親から聞いた話によると、みなみが真鍋家に直接出向いて家族分のチケットを手渡したそうだ。


一体何がどうなって、そんな事になったのか夕陽にはさっぱりわからなかった。


彼女は一体何がしたいのだろう。



「はははっ、俺も家族連れて怜サマ見せたいよ」



「……マジかよ」



夕陽は更に重いため息を吐いた。

そうこうしているうちに照明が落ちてオープニングが始まった。



「いよいよだな♡」



笹島はペンライトを推しの色にして、瞳を輝かせている。

後ろを見ると、ペンライトの使い方がわからない夕陽の父親が妹の美空に呆れられながらもレクチャーを受けているのが見えた。


やがて爆音と共にトロピカルエースの5人がステージに登場した。


音て光の洪水に全身が包まれる。

ただその眩しい奔流に夕陽は身を任せた。















いよいよ風呂敷をたたむ章になりました。

ラストはずっと決まっていて、そこに進むまでのエピソードが出来てない状態でしたが、何とか見えて来ました。


しかし物語は終わってもちょこちょこっと、その後の二人は書いていこうと思ってます。


本当に趣味のアフターストーリーになりますが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る