第171話
「まさか…、それが円堂崇なの?詩織はそれ、知ってたって事?」
みなみは鎮痛な表情で言葉を絞り出す。
そんな彼女の様子を見て、詩織は自重気味に薄く嗤った。
「ええ。知ってたわ。その事実は円堂側が握り潰したようだけどね。でもその頃にはうちも家庭崩壊していたようなものだったから親がお金で解決させたみたいね」
「ちょっと、何なのよ。何の話なのよそれ。それじゃあ、あなた…」
一人蚊帳の外に置かれた限竜は二人を交互に見る。
彼だけは過去、詩織の身に起きた事件を知らないのだ。
ただ、詩織の男嫌いというトラウマから何となく察せられたのか、あまり深く踏み込んではこなかった。
「その話については後から円堂に聞けばいいじゃない。円堂が何て言うか興味はあるけどね。まぁ、そろそろあんた達、親子なら腹を割ってきちんと話し合うべきだと思うけど?」
「……痛いとこ突くわね。まぁいいわ。今回のあたしは付き添いだから傍観に徹させて頂く」
限竜はそう言って今度はプリンを口に運ぶ。
一体そのスリムな体型はどう維持しているのだろう。
みなみは半分羨むような目でチラリと盗み見た。
「円堂は父親に代わって野崎の家に多額の慰謝料を払ったわ。私が東京へ出たいと言った時も援助してくれたし、店も出してくれた」
「え。何でそこまで?」
崇は実父の再婚相手の子供で、円堂とは血縁関係のない義理の弟だ。
その義理の弟が犯した罪に対し、円堂がそこまで尽くす意味がわからない。
「さぁね。単に体裁の問題じゃないの?一応著名人だし」
「うーん。そうなのかなぁ」
みなみは頬杖をつきながら軽く息を漏らす。
あの円堂殉という男が詩織に対して見る目はどうも違うような気がしてならない。
しかしだからといって、詩織がその件に関して嘘をついているようにもみえない。
多分彼女にもそれはわからないのだろう。
だが、これで少しはわかってきた。
「じゃあ、何で円堂崇は詩織にそんな事をした今でもまだ詩織の側に付き纏っているの?」
詩織はその問いかけに頭の中で何か吟味するように視線を宙へ向ける。
そしてその視線の先に限竜を捉えた。
「そうね…私の側にいる事によって奴は円堂から金が貰えると思っているし、円堂はそれをある意味弟への抑止剤のように考えていたのかもね。まぁ、もしもの時の為に紘太、あんたがいたんでしょ」
「あぁ、そう言う事」
みなみは得心がいったように頷いた。
詩織と限竜が共にいる理由はこれだったのだ。
「まぁ、そういう事ね。あたしも詳しくは知らされてなかったけど、いざとなったら崇からこの子を守るように言われてたの。でもこの子ったら異常なくらい男に対して過剰に反応するから大変だったのよ。おかげですっかりプライベートではこんなキレイなお姉さんの出来上がりよ」
そう言って限竜は髪を掻き上げる。
「それは必要なかったと思うけど…」
詩織は呆れたように肩をすくめてみせた。
「で、みなみ。最初に戻るけど、あんたは一緒に帰らないのね?」
ここでようやく本題に入った。
みなみは深く頷いた。
「うん。ごめんね。今の私は何と比べても絶対夕陽さんを取るから」
「例えアイドルを辞めても?」
「うん。勿論だよ」
「清々しいくらいはっきり言うのね」
これはみなみの本心だった。
だからこれは、これだけは絶対に譲れない。
みなみは大きく息を吸って、詩織に宣言した。
「私は夕陽さんと、夕陽さんのご家族への誠意を「結婚」という形で示したい」
「!?」
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