第169話

「あらやだ、こんな離発着で慌ただしい中に素敵なカフェがあるじゃない♡ねぇ、ねぇ、何頼んじゃう?シェアしちゃう?」



「…………」




ガラガラと二つのスーツケースを引きずりながら三人が入ったのは、空港内にあるカフェだった。


中は空いていて、数組の客が飲み物を手に談笑している。

店内にはシンプルなカウンターもあって、小さな棚にはクリスマスの小物が飾られてあるのが可愛らしい。


三人は人目を避けるように入り口から一番遠い席に着く事にした。


一応これでも、みなみと限竜は芸能人なので混乱を避けるためにもなるべく目立つ事は避けたい。


しかし、限竜に至っては完全にキャラが崩壊しているので、誰もあのクールでダンディを売りにしている演歌歌手だとは気付かないだろう。


詩織は席に着いた早々、不機嫌そうな様子でおまけのようにくっついて来た限竜へ向け、鼻息を荒くした。


彼はそんな詩織の様子に気付く素振りすら見せず、瞳をキラキラさせて可愛らしいカフェメニューに魅了されている。



「あんたねぇ、何で来たのよ。それにあんたになんか奢らないわよ」



「何よぉ。ケチねぇ。あたしはこの子の保護者として来たのよ」



「はっ、何が保護者よ!ふざけないで」



するとそれが気に入らなかったのか、詩織が噛み付かんばかりに牙を剥く。



「…ま、まぁまぁ。詩織も限竜さんも落ち着いてよ」



何故かいつもとは逆の立ち回りをしている事に違和感を感じならもみなみは二人を宥める。



「ふんっ。じゃあ、いいわ。紘太の事はこれから居ないモノとして話すから。ここには私と巳波しかいない」



「どうぞご勝手にー。さぁて、何食べちゃおうかしら♡まずはクレープシュゼットとぉ、フォンダンショコラとぉ」



「ぐぬぬっ。巳波、コイツちょっと始末してきていい?いいよね?」



「いやいや待って。まずは話そうよ。大体二人はどういう知り合いなの?」



みなみは慌て立ち上がりかけた詩織を再び椅子へ座り直させる。

詩織はまだ苛立っていたが、少し冷静さを取り戻したようだ。



「どういうって…。大体わかったんじゃないの?」



詩織はじっと探るような目でみなみを見つめ返す。

それにみなみは少し間を空けて軽く頷いた。



「限竜さんが円堂の息子さんなら、やっぱり円堂教授と野崎教授の事件絡みって事?」



それを聞いて、メニューを見ていた限竜の目が一瞬鋭くなる。

詩織はふっと息を漏らし、チラリと限竜の方を見た。



「やっぱり話したんだ…」



「まぁね。でもいいのかしら。あたし、「居ないこと」にしたんじゃなかった?」



「あんたの存在、今から本当に消してあげてもいいんだからね?」



「あははっ。やだ面白い冗談ね〜♡」



限竜はメニューでパチパチ手を叩く。

みなみはそんな二人のやり取りをただ呆れるように見ていた。



「まぁ、話したのはそれだけよ。別にあんたの事なんて大して話してないし。ただ、この子はそれだけで大体理解出来るんじゃないかって思ったから話したの」



ねぇ?とでも言いたそうな顔で限竜はみなみの方をチラリと見た。



「でもそれだけじゃわからないよ。あの後、二人の教授は揃って学会を追放されたじゃない。どうしてその野崎教授の娘と円堂教授の孫が知り合って、こうして一緒にいるの?」



みなみの問いかけに詩織と限竜は顔を見合わせる。



「そうね、いいわ。この際だから全て話してあげる。いいでしょ。紘太。あんたも全ては知らないはずよ」



「あんた……」



限竜は弾かれたように顔を上げた。

その顔には困惑が広がっていた。








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