第164話

結局、何も解決の糸口さえ見当たらないまま徒に日々は過ぎて、とうとうクリスマスのライブ当日になってしまった。


夕陽は早々に仕事を切り上げ、出る準備を始める。

鞄の中には先日、みなみから渡された封筒が入っている。


勿論中身は見ていない。

手に持った感触はかなり薄い。

中身が本当に入っているのかすら怪しい感触だ。


だが彼女が何か企んでいる事は確かなので、夕陽は大した疑問も抱かずそれに乗っかる事にした。


ロッカーでコートを羽織り、マフラーを首に巻いていると、ちょうど打合せから戻って来た笹島が飛び込んできた。



「おっ、夕陽!もしかしてもう準備出来てんの?」



笹島は真冬だというのに額に汗を浮かべて、ロッカーへ駆け寄る。



「ん、まぁな。それに今日はクリスマスだからなのか、会社にもあまり人いなかったし」



「あー。そっか。三輪たちも今日は帰ったのかなぁ」



「三輪は福祉系のイベント会場の下見で今日は直帰だったぞ」



「あれか。結構遠いからまだ終わってないかもなぁ」



笹島はネクタイを外し、ライブ用の派手な格好になるとその上からコートを羽織る。



「おい、まだここ社会だぞ」



「大丈夫だって。コートで隠れるから」



「………全く」



夕陽は呆れて鼻を鳴らす。

ちなみに夕陽はネクタイを外しただけのスタイルだ。


特にライブだからといって、笹島のようなトロピカルエースのファンでもないのだし、派手な勝負服や小道具の類は一切持たない。


程なくして笹島の準備が終わり、二人はそのままライブ会場へと向かう事にした。


会場へは電車で向かう。



「きっとクリスマスだから交通機関は激混みだよなぁ」



「俺、昼に用事で一回外出たけど、もう凄かったぜ」



夕陽はうんざりしながら人混の塊を見やる。

いつもはそれ程、人気のない会社付近から既に混み行っていた。



「なぁ。俺ら、一応リア充勢だよな?」



笹島がボソリと呟く。



「そっか?別に充実してるって実感はないけどな」



「……だよな。俺も最近はメッセージのやり取りだけで顔も見てない日ばかりだよ」



笹島も深々とため息を吐いた。

どうやらお互い、リアルは似たような状況らしい。




「ま、しょうがない。それがアイドルを彼女にした彼氏の宿命と思おうぜ」



笹島が小声でそう言うと、勢いよく人混みの中へ突入していった。



夕陽は肩をすくめると、自らもその群衆の一部となるべく後を追いかけた。



そしていよいよ運命のライブが始まる。


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