第156話

……男と遊んでるヒマあったらもう少しダンスの練習しろよな。




「……はぁ。夕陽さんまで撮られてるし」



スマホの画面の向こうには、楽しそうに腕を組んで買い物を楽しむ自分と恋人の姿が捉えられている。


多分今月の初めの頃のものだろう。

こうして客観的に恋人と一緒にいる時の自分の顔を見ると、別人のように見えて恥ずかしい。


しかし問題はそこではない。

写真を下へスクロールしていくと、恋人である夕陽に対する書き込みも複数見られた。



…「結構カッコイイ」



…「コイツが毎晩俺のみなみんを…」



…「俳優かな?」



……と、様々な書き込みで溢れていた。

今はこのような彼の容姿に対する印象が多いが、その内彼個人まで特定されそうで怖かった。



「あらぁ、またエゴサ?アンタも好きねぇ」




クリスマスの特番の収録の合間に楽屋で自分で軽くメイクを直しつつ、片手でスマホを操作していたみなみは、振り返る事もせずスマホを伏せた。



「また道明寺さん来たんですか?」



「あら、よくアタシだってわかったわね」



「その変な口調で即バレだっての!」



そこでようやく振り返ると、そこには白いスーツの衣装を纏った限竜がニコニコ笑顔を浮かべて立っていた。

形の良い額にパラリと一筋かかる髪に色気を感じる。


その横にはみなみと同じ衣装の後島エナが、こちらも笑顔で手を振っていた。

みなみは軽くため息を吐くと、二人をゆっくりと見上げる。



「お宅らいつの間にそんな仲良くなったワケ?」



「えー、たまたまだよ。たまたま」



「そうそう。タマタマよ♡」



「道明寺さんのだけ何か違う「たまたま」なニュアンスがするんだけど」



すると限竜は何故か照れたように顔を赤らめ、みなみの額をピンっと弾く。



「いったぁ!いきなり何すんのよ」



「ゴメン。何か生意気だったからつい♡」



「ちょっともう何なのよそれ」



「それより、みーちゃん。またエゴサしてたん?」



エナが机の上のスマホを指差した。



「まぁね。一応何か新しいカキコあったかなって…」



「そんなの見たってロクな事ないって言ってるじゃない」



限竜の呆れたようなため息と共にエナも頷く。



「まぁね。わかっているけどやっぱり気になるじゃん」



そしてみなみはスマホの画面を二人へ向ける。



「うわ、ここまで晒すんだ…」



「これはちょっとエゲツないわね。相手一般人だってのに」



限竜の方もややげんなりした顔でスマホの画面を見ている。



「そんな事情なんて向こうには関係ないんだよ。面白ければいいみたいな。私だって結構あるよ〜。しょうがないよねーでは済まされないくらいエグいやつ。しかも相手の勝手な思い込みみたいなの」



エナはそう言ってスマホをみなみへ返した。



「こんなの放っておきな。それより今は目の前の仕事を考える!」



「そうよ。エナちゃん、イイ事言うわね〜。そういえばそろそろクリスマスだけど、お二人のご予定は?」



そう言われてみなみとエナは顔を見合わせる。



「勿論仕事だよ。クリスマスは歌番組とライブ。あ、その前に写真集の握手会と春の新曲のセンターも決まるんだよね」



「あら、盛りだくさんじゃない。本当に売れっ子なのね。それにセンターって、アンタたちのとこって固有センターじゃないの?」



自分の年内のスケジュールは小さな取材が数本の他は演歌道という歌番組の収録と大晦日の歌番組くらいしかないわと限竜は笑いながら言った。


それでも大晦日の歌番組はかなり大きな仕事だ。

勿論、みなみたちトロピカルエースも出演が決まっている。




「固有ってワケじゃないですよ。ウチはプロデューサーの一十先生が全部決めるから、後々までウチらはわからないんですよね」



「へぇ、その発表が近日中って事なの?」



「そうなんですよ。ネットニュースでは明日じゃないかって…」




「みーちゃん。またエゴサしてるし。まぁ、こういう事って何故か正式にこっちに伝えられる前にネットから知るパターン多いよね。どこで漏れてるのやら」



エナが呆れたように肩を竦める。



「うぐっ…。とにかく!私は今度こそセンター狙うつもりだよ。まだ私だけ一度もセンター務めた事ないし」



みなみは拳を突き上げた。

女性アイドルグループにおける「センター」というポジションは重要な意味を持つ。


誰しも一度はその頂きに立ちたいし、そんな彼女を推すファンとしても何とか自分達の応援で押し上げたいと願っている。



だが、現在トロピカルエースでセンターを務めていないのはみなみ一人のみだ。


その事実は本人が気にしないようにしていても、新曲が発表される度に頭の隅にこびり付いて離れない。



「うん。今度こそ、みーちゃんが選ばれるよ〜。頑張って」



エナは無邪気に片手を突き上げる。

どちらにせよ自分には無縁のイベントな限竜は苦笑しながらも、取り敢えず応援するわと言ってくれた。



「うん。今はそこが私の目指すところかな。自分なりにダンスとか頑張ってるし」



みなみは力強く頷いた。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る