第153話

「おっ、このドラマの端役、もしかしてみなみじゃないのか?」



夜。

深夜枠のドラマのワンシーンにみなみの姿を見つけ、夕陽は思わず画面に寄った。



「あ〜、それ?まぁチョイ役だったんだけど結構ハマり役みたいな感じで反応良かったんだよ」



すると一緒にドラマを見ていたみなみも嬉しそうに瞳を輝かせる。



「あぁ、俺もいいと思うぜ。去年出た連ドラの時より上手くなってる」



「ホント?嬉しいな」



確かに去年のみなみの演技はいかにも新人アイドルが本業の片手間にやりました的な稚拙さが際立っていた。

それが僅かな期間に彼女の演技はかなり上達していた。



「お前、案外こっちの方が向いてるのかもしれないな」



「えっ、それ本当?」



みなみはやけに真剣な顔で夕陽を見てきた。

夕陽の方は軽い気持ちで言った半面、少し戸惑った。



「あぁ。まぁな。でも決めるのはお前や事務所だろ。そういうのはもっとよく考えて決めた方が良いぞ」



「うん。わかってる……」



「ん?どうかしたのか」



何やらみなみが何か言いたそうな目を向けてきて、夕陽は訝しげに眉を寄せる。



「うん。あのね、夕陽さんってキモいくらいちゃんと私の事見ていてくれてるんだなーって実感したんだ」



「……それ微妙に傷つくんだけど」



夕陽は心底ガックリしたように肩を落とす。



「あっ、違うの。いい意味でだよ!いい意味で!かっ



慌てて取り繕うが、もう既に遅い。

夕陽はもうスネスネモードで床にのの字を書いている。



「キモいにいい意味なんて一ミリも含まれてねーわ!100パー悪い意味しかねーよ」



「あぁぁ、もう面倒くさいなぁ。つまり大好きって事じゃん」



そう言ってみなみは夕陽の顔を覗き込む。

飴色の瞳にやや光が灯る。



「お前そう言ってうやむやにする気でいるな?言っておくが男はそんなに単純じゃ……」



「今日は泊まっていこうかな〜。いいよね?夕陽さん」



みなみが更に顔を覗き込んでくる。

流石に本業がアイドルなだけあって、このセリフと表情には抗えないものがある。



「……仕方ねーなぁ。もう」



みなみの鼻先に軽く唇を落とし、夕陽は勢いよく立ち上がる。



「さて、夕飯でも作るか。何食いたい?」



「○○ーチェ!牛乳と混ぜるだけ!」



それは二人でスーパーへ行くと必ずみなみが頼む即席生菓子である。

フルーツの入った調味液と冷たい牛乳を合わせるとペクチンの成分で固まる定番のスイーツだ。


見た目はヨーグルトのようだが、酸味は少なく独特のプルプル食感がある。


夕陽も子供の頃は食べたような記憶はあるが、今となっては自分から買う事のない物ではあるが、みなみが好きなので数種類ストックしてあった。



「却下。お前マジで俺の心折るの天才的だな。思わず殺意芽生えそうだわ」



「え、天才?そんな…照れるよ」



「都合のいいところだけ抜粋すんな!」



そんなみなみの我儘が通る事はなく、その日の夕飯はカレーになった。

みなみは文句を言っていたが、それでも嬉しそうにカレーを頬張った。



再来週はいよいよクリスマスである。

二人の運命の瞬間が刻一刻と近づきつつあった。

















更新遅れて申し訳ないです。

さて、この物語での時間は残り二週間切りました。

ラストはもう決まっていて、問題はそこにすんなりいけるかどうか。

何とか到達出来るよう頑張ります。


そういえばヒロインは自分の好きにはならないタイプをいかに魅力的に書けるか挑戦の意味で書いてみたのですが、ラスト近くなってもまだ自分の中では微妙ですw


だからあまり魅力的に描けてないのか…それが反省点です。

これはラストで巻き返せるよう精一杯足掻いてみます。


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