第144話

「円堂が双子ってどういう事なの?」



さらさはスマホをしっかり持ち直し、声を硬質なものへ変えた。



「いえ、俺もあれから色々円堂関連の書き込みがないか調べてみたんですけど、残念ながら円堂の経歴は不自然なくらいクリーンで何も出てこなかったんですよね。で、円堂からのアプローチは一旦諦めて、円堂教授を調べてみたんです。そうしたら結構色々出てきて…」



「何々?それどういう事?」



円堂教授の名が出た瞬間、さらさの顔つきが変わった。

さらさはゆっくりとダイニングから自室に移動する。



「飽くまでネットがソースなんで真贋は不透明なんですが、円堂教授の息子が何回か逮捕歴があるとか…」



「え、ちょっとそれ何なの?私も知らないんだけど」



思わず声を荒げてしまったさらさに驚いたのか、夕陽も落ち着かない様子で息を呑む気配が伝わった。

それが本当なら信じられない事だ。

確かに円堂教授には息子がいる。

それが円堂殉だと思っているのだが、実際円堂と付き合っている頃、はっきり彼から聞いた事はなかった。


それは円堂が過去や家族の事をあまり語りたがらない為だ。

無理に聞いて彼の機嫌を損ねたくなかったのもあるが、その辺りを最後まで聞けなかったのが心残りではあった。



「落ち着いてください。でもそれが本当の事なら去年、栗原柚菜と結婚した時にわかるものですよね。相手は人気女優ですし。特にマスコミなら飛びつきそうなネタです」



「そうね。栗原柚菜の結婚相手の事はしばらく相手の事も色々報道されてたわね」



さらさは去年の事を思い出す。

この業界にいる以上、ある程度のプライバシーは諦めないとならない。

人気女優である栗原柚菜の電撃結婚のニュースは一週間程テレビやネットを賑わせた。


その際も彼女の結婚相手が一般男性という事で、顔は伏せられていたもののかなり詳細なプロフィールが報じられていた。


流石に彼の家族構成までは公開されていなかったが、彼の経歴は綺麗なものだった。



「じゃあガセネタじゃないの?」



「まぁ、そうですよね。でもちょっと気になったんで」



夕陽は何か引っ掛かるものがあるようだ。



「ちなみにその罪状って何なのかわかるの?」



「あぁ、何か……痴漢みたいな?」



「痴漢?電車とかで?」



さらさは眉を顰めた。

あの高慢で自尊心の高い円堂が電車で痴漢行為をするようには見えなかった。



「いや、学校帰りの女子学生に抱きついたりキスをしたり…という書き込みでしたよ。もうそのスレ自体かなり前のもので、詳しく聞くにもスレ主も連絡つかなくなってんですよ」



「うーん。私には円堂がそんなマネするようには思えないのよね。確かに若い子が好きなのはわかるけど、わざわざそんなリスク背負う必要ないじゃない。お金あるんだから」



「まぁ、そうですよね。だからそれは円堂殉ではなくて、兄弟か何かかなって思ったんです」



「そういう事だったのね。でも例え兄弟だとしても、そんな身内の犯罪歴をマスコミに隠せるかしら」



犯罪ではないが、さらさの家の事情も以前週刊誌に書かれた事があった。

自分は父親の顔も知らずに生まれた事や、母親の再婚話まで描かれていて、当時は相当腹が立った。


つまりこの業界で顔と名前を晒して活動するという事はプライベートもある程度犠牲にしなくてはならない。

本当に隠せる事は少ないのだ。



「そうですね。やっぱり違うか…」



夕陽はため息を吐いた。

確かに気にはなるが、まだ不確定な部分が大きい。



「あ、すみません。長く話しちゃって」



「いいえ。大丈夫よ。わざわざありがとう。これからも円堂絡みの事はどんな些細な事でもいいから何でも教えてちょうだい」



「はい。では失礼します」



電話はそこで切れた。

さらさはゆっくりとスマホをベッドの上に置く。



「…一体どうなっているの?」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る