第138話
……永瀬みなみ、歌も演技も下手なのにまだトロエーでアイドル面してんの意味わからん。
……コイツがテレビ出てたらすぐにチャンネル変えるわwwww
「……………」
テレビドラマの収録スタジオの一角にある休憩スペースで、自分の役の出番待ちをしていたみなみは小さくため息を吐いてスマホを伏せた。
この手の書き込みはトロピカルエースの知名度が上がる度に増えていくもので、上手く割り切らないとならない。
怖いから見ないようにしていたが、それでも見てしまうのは自分の心の弱さなのだろうか。
「なぁに?スマホを見てため息なんて。乙女ちっくじゃないの」
「…道明寺さん。また来たし」
「あらご挨拶ね。同じ作品に出てるんですもの。しかも夫婦役なんだから顔を合わせるのは当たり前よ」
そんなみなみに声をかけてきたのは、衣装であるレトロなダブルのスーツを着た演歌歌手にして俳優の道明寺限竜だ。
このドラマでは彼は教師役で、みなみはそんな彼を影から支える妻役をしている。
彼は爽やかな笑顔を浮かべたまま、強引に隣に座って来た。
みなみは少々ムッとしながらも、尻を浮かして少し彼から距離を取る。
「何々?もしかして恋のお悩み?お兄さんに話してみなさいよ♡」
「近いですって。別に違います!コレ見てたんです」
そう言ってみなみはスマホの画面を限竜に向けた。
限竜は目を細めてその画面に視線を這わせる。
「ナルホド、ナルホド。今更こんなの見てため息なんて吐いてたの?ダサっ」
「別にこんなの気にするだけ無駄だってわかってます!」
大袈裟な限竜にみなみは不快感を露わにする。
所詮この男には何を言っても無駄なのだ。
みなみはスマホを仕舞うと、限竜から目を背けた。
「そうよ〜。そんなのアタシの方がもっとエグいのあるわよ」
そう言って限竜は自分のスマホ画面をみなみへと向ける。
…コイツこんなイケメンのクセに全く浮いた噂ないからゲイなの確実w
「あら、これはホントなんじゃないんですか?」
「ちょっと、それは違うわよ。アタシの恋愛対象は女性よ。コレはただの個性なんだからね」
限竜は鼻息を荒くする。
みかみからすると、どうでもいい事なのだが。
「まぁ、でもこういう噂って中には真実も紛れていたりするから怖いのよねぇ」
「あぁ、ゲイだって…」
「それは違うから!」
そうして二人で笑い合っていると、向こうからシックなスーツを纏った男性が近づいて来た。
「おや、キミは永瀬みなみくんじゃないか。限竜と一緒かい?やぁやぁ、こうして二人で並んでいるとお似合いじゃないか」
「円堂さん……」
やって来たのは何やら楽しげな表情を浮かべた円堂殉だった。
円堂は笑みを絶やさず、限竜の横に来るとそう二人を称えた。
すると限竜が立ち上がり、みなみを円堂の視界から隠すように立ち塞がった。
「社長、俺に話があるんでしたよね。後は楽屋でお聞きします」
そう言って限竜は後ろ手でみなみに「行け」とサインを送ってきた。
どうやら庇ってくれているらしい。
円堂とは事務所移籍の件がまだ片付いていない。
勿論断る事は決めていたが、それからもまだ彼からの熱烈プッシュは続いていて、かなり困っていたところだ。
限竜の好意に甘えるのは気が進まなかったが、円堂はそれ以上に関わりたくない。
みなみは速やかに荷物を片付け、二人の横をすり抜けていった。
「おや。ふむ?逃げられてしまったか。どういうつもりかな。限竜」
円堂はすぐに彼の意図を察したようだが、敢えて逃げるように去っていくみなみを呼び止める事はせず、呆れたように限竜を見た。
「別にどうもしませんよ。ただ話があると仰ったのは社長ですよ」
円堂は軽く息を吐いた。
「OK。今はそういう事にしておこう。じゃあ、向こうで話そうか」
「えぇ…わかりました」
限竜は軽く視線を逸らす。
(しょうがないわよね。アタシに出来るのはこれくらいしかないから)
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