第133話
「あらやだ。このオンナ絶対騙されてるのよ。オトコの方も大した事ないわよねぇ…」
「……道明寺さん、それ自分の楽屋で見てくれません?ウザ過ぎなんですけどー」
舞台が終わって間もなく。来年から始まる新ドラマの撮影が始まり、みなみが楽屋で台本をもう一度チェックする為に戻って来ると、そこには自分の部屋のように寛ぐ道明寺限竜がいた。
横にあるテレビ画面は、他局の奥様向けの番組が流れている。
限竜は勝手に差し入れの菓子を頬張り、テレビに文句を言いながら見ている。
「あら、一緒に見ましょうよ〜。アンタも彼氏に浮気された時の参考になるわよ」
「見ません!それから彼氏いませんし」
みなみはきっぱりそう言い放ち、限竜を無視するように付箋だらけの台本を机に広げた。
限竜とは舞台での共演をきっかけに、何かと共に仕事をする機会が増えた。
公の場での限竜は爽やかなイケメン演歌歌手を演じているが、そこから離れるとこのようなオネエ口調に戻る。
特にみなみの前では常にこの口調でいる事から、かなりこちらに気を許しているのかもしれない。
みなみにとってはかなり迷惑な話だが。
その限竜、急に何を思いついたのか、ススっとみなみの横に近付くとコッソリ耳元に囁く。
「襟足のとこ、キスマーク残ってる♡気を付けなさいよ」
「!」
するとみなみはカッと目を見開き、すぐに手を襟足に持っていった。
すぐに限竜は笑った。
「ふふふふっ、あはははっ。そんなのウソよ。でもやっぱり彼氏いるじゃない」
「ばばばばば…馬鹿じゃないですか!?」
「ホント可愛い〜♡ねぇ、いっその事ホントに付き合っちゃいましょうよ。アタシと」
「彼氏いるかどうか確認して、よくその発言出来ますね。ゴメンなさい。キモ過ぎるんですけど」
みなみは大きく限竜から距離を取る。
限竜の方はまだニヤニヤ笑っていた。
「あらら。またフラれちゃった。でもその方が燃えるわよね」
「……話聞いてました?」
どうもこの男の真意がわからない。
みなみがまた何か話そうとしたところでスタッフのノック音が響いた。
「永瀬さん、そろそろスタジオ入りお願いします〜」
「あっ、ハイ!」
みなみは弾かれたように反応すると、手荷物を纏め始める。
結局台本はチェック出来なかった。
恨みがましい目で限竜の方を睨んでやると、当の限竜の方はどこ吹く風だ。
「さてと。アタシもそろそろ自分の楽屋で台本チェックしよっと♡」
「あっ、ズルい!」
限竜の出番はまだ先だ。
これから台本をチェックする時間はたっぷりある。
余裕綽々な限竜を見て、みなみは軽い殺意を覚えた。
☆☆☆
「は?え、今何て言った?」
その頃。
新宿の花屋にて。
笹島は久しぶりに
薔薇は義理の姉であるナユタの兄だ。
最近何かと忙しかったので会う機会も減っていたのだが、笹島は意外と彼を気に入っていたので連絡は取り合っていた。
ホストのような金髪と無数のピアス姿の薔薇は、思わず持っていたバケツを取り落としそうになる。
「いや、トロエーの乙女乃怜と付き合ってるって」
「可哀想に…。遂に童貞菌が全身に回って幻覚を見るようになっちまったか。だから俺が適当な女、紹介するって言ったろ」
今日は薔薇に怜と付き合う事になった報告をしに来たわけだが、やはりというか当然というか、信じてもらえなかった。
「童貞はウィルスじゃないからね!?いやいや、マジなんだって。ほらこの写真見て」
笹島は信用してもらえるよう、スマホの写真を見せた。
そこには腕を組んで笑う笹島と怜がいた。
「……何かのイベントでアイドルと写真撮ってもらったキモヲタファンにしか見えないが?」
「ちげーよ!ちゃんとしたカップルだよ」
薔薇は整った顔を顰め、写真を凝視する。
ここはホストクラブやスナックが多く、この花屋の利用客もその関係者が殆どだ。
そんな彼も半年くらいホストをしていた時があったという。
顔が抜群に良かったので、そこそこ人気はあったが、喋りが苦手ですぐに辞めてしまった。
その後、彼を心配した店長にこの店を紹介してもらい、こうして働くようになったという。
元々花を好きだったさらさの影響で花に興味を持っていた薔薇は、すぐに店に馴染んだ。
今の夢は自分の店を持つ事だ。
そんな薔薇は、スマホを笹島に返すと肩を竦めた。
「乙女乃怜も色んな男喰いまくって、おかしくなったのか?何だってこんなアフロを…」
「おいおいおい!怜サマは女神なんじゃ!」
薔薇は半眼で笹島を見た。
「じゃあ、そんな女神サマのオッパイ、生で見たのか?どうだったよ」
笹島の動きが止まった。
「いや…まだ見てないっすけど」
すると薔薇が爆笑する。
「ギャハハっ。何だよそれ。んじゃまだ童貞のままじゃん」
「童貞童貞うるさいなっ。いいんだよ。そういうのはゆっくりで」
「はいはい。まぁ、何かそっちの件で相談あればいくらでも乗ってやるよ」
散々笑った後、薔薇はようやく顔を上げた。
「相談って、何だよ」
「そりゃ色々あんだろ。最初じゃ上手くやれない事もあるし」
「いいっす。そんなの」
薔薇はまた大いに笑った。
その時だった。
「あぁ、藤森くん。またブーケを一つお願い出来るかな?」
不意に表から客の声がかかった。
声は男性のものだった。
薔薇はすぐに店の表へ出た。
「あ、はい。只今。円堂様お待ちしてました」
笹島はそれを聞いて首を傾げる。
「円堂…?」
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