第132話
「だからさぁ、元気出せって。笹島。ほら、お前の好きなアニメ始まったぞ?」
夕陽はリモコンを手に、テレビ画面を示す。
画面には女児向けの変身魔女っ子モノのアニメが流れている。
笹島が毎年劇場へ通うほど好きな作品のはずだ。
だが隅の方で膝を抱えて体育座りをしている笹島には届かない。
「まみルルを見たって俺の傷付いた繊細なハートは息を吹き返さないヨ……シクシク」
「お前なぁ…。どうせなら自分の家で落ち込めよな」
そう、ここは夕陽のマンションなのだ。
昨日突然入った乙女乃怜の婚約報道からすぐに笹島がこちらにやって来た。
久しぶりに夜はみなみと過ごそうと思っていた絶妙なタイミングで現れ、やや夕陽としてもご立腹だったのだが、今回は事情が事情だ。
仕方なくこうして宥めているのだが、一向に笹島の気持ちは浮上してこない。
「怜サマ、心変わりしたのかな。やっぱりイケメソが良くなったんだろうか…」
「うーん。そればかりは本人の口から聞かないと何とも言えないな。乙女乃さんと連絡つかないのか?」
笹島は横に置いていたスマホを手に取り、首を振る。
「全然繋がらない。避けられてんのかなぁ」
「それどころではないくらい忙しいんだろう?少しは前向きに考えろよ」
「そんなの無理ー。もう俺、仕事も辞めるー。人間するのも辞めるー。何もしたくない」
そう言って笹島はコテンと床に転がった。
「……ダメだな。コイツ」
「あれ、夕陽さん。今日はお休みなの?」
そこに合鍵で入って来たみなみが顔を出してきた。
「あぁ。それよりお前こそどうなんだよ」
「私はリハ午後からなんだ。それより笹島さん、まだ居たんだ…」
みなみは背伸びをして、奥で寝そべっている笹島を覗き込む。
「まぁな。何言っても全く浮上しねぇ」
「そうなんだ。もしかして全部笹島さんの妄想だったんじゃない?」
……グサァ!
次の瞬間、笹島は雷で撃たれたようにビクンと痙攣し、そして動かなくなった。
「おいっ!何いきなり登場してトドメさしてんだよ」
「ええっ、でも夢なら早く醒めた方がいいと思って…」
「お前は鬼か!」
☆☆☆
その頃、乙女乃怜は所属事務所の会議室にいた。
たった今、事務所への説明が終わったところだ。
「怜。大丈夫?」
「森…さん。ええ。誤報は誤報だったけど、新しい彼氏がいるのは本当だから、ちょっと揉めちゃった」
怜は幾分疲れた顔をしていたが、それでも毅然と姿勢を正す。
「でも大丈夫。あたしはまだトロピカルエースの乙女乃怜なんだから」
「怜…」
「今日の午後には公式サイトの方から婚約関連のニュースに対する誤報の説明が掲載されるはずです」
怜の婚約報道は以前、佐野隼汰へ指輪を返した日の写真からくるものだった。
実際佐野隼汰とは心神喪失していた時期に彼に保護してもらっていただけで、交際の事実はない。
それに現在は笹島耕平と新たな関係を築いてる今、その情報は早めに訂正しないとならない。
「うん。わかったわ。それよりその彼氏さんには説明したの?」
さらさの言葉に怜は動きを止めた。
「あ……忘れてた!どうしよう。森さん」
「ちょっと、早く連絡しなさいよ」
夕陽宅でふて寝を決め込んだ笹島がその事実を知るのは翌日の事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます