第128話

「でも野崎詩織がその野崎教授の娘かは確証がないワケじゃん」



笹島の意見に夕陽たちは静かに頷いた。



「そうよね。野崎なんてあまり珍しい苗字でもないから、本当にそうかはわからないわ。でも何か円堂と野崎って取り合わせが妙に気になったから話しておきたかったの」


さらさは苦笑気味に自分の話はそこまでだと言った。



「しばらくは様子を見て判断しましょ。じゃあ今日はこれで解散ね。帰りましょうか。耕平くん」



そう言って怜は笹島の腕を取った。



「え?いや…あの…ええと」



「ちょっと待ちなさい。怜。あなたは私と一緒に帰るのよ」



そこに眉を吊り上げ、こちらを鋭い顔で睨むさらさが立ちはだかった。

現在怜は部屋が見つかるまで、さらさのマンションで同居している。


すると怜はムッとしたように顔を顰める。



「そんなの知らないわ。あたし、今日は耕平んとこに泊まるから。ねっ、耕平くん」


「え、まじで?」



笹島は挙動不審に怜とさらさを交互に見て冷や汗を浮かべている。



「笹島、しっかりしろよ」


「いやだって、怜サマが俺と一夜を過ごしたいって…」


「お前、実家暮らしだろ。んな甘い一夜、期待するだけ損だぞ」


夕陽がコッソリ耳打ちするが、笹島はぼんやり夢見心地になっていて聞いちゃいない。



「とにかく、そんな勝手は許さないわよ。もしそこのアフロくんと帰るなら、もう部屋には入れないわよ。それにあんたの下着、全部オークションサイトに出品してやるから!」


「なっ!」


これには怜の顔色が一瞬で変わった。



「ご…ゴメン。耕平くん。お泊まりはまた別の機会にね」



「あはは。そ…そっすね」



そのやり取りを見て夕陽は思った。

絶対、その下着がオークションサイトに出品されたらヤツが全力で落札すると。



こうしてさらさに強引に連れられて怜は夕陽の部屋を後にした。

残された夕陽と笹島は深くため息を吐いた。



「アイドルのカレシって、疲れるもんだな」


「………お前の場合、アイドルってだけじゃないと思うぞ」



今日は色々な事がわかった。

だが、それ以上に謎も増えた気がする。

夕陽はテーブルの上に残された二名の教授の論文盗用疑惑の記事を見た。



「取り敢えず、明日はこの新聞記事を詳しく調べてみる事にするか…って、笹島!寝るな」



やけに静かだと思ったら、笹島はフローリングの床にうつ伏せで寝入っていた。


どうやらこのままここに泊まっていく事確定なようだ。



「どうでもいいが、風邪ひくなよ」



夕陽はパサリと笹島にブランケットを掛けると、後片付けを始めた。



「ふぅ…みなみは今頃どうしてるんだろうな」
















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