第127話

「円堂と初めて会ったのは、二十歳くらいの時かな。東京へ出てきて数年、少しずつ仕事も増えてきて、歌も何曲か出してた頃ね」



さらさは当時を懐かしむように、口元に笑みを浮かべていた。



「当時所属していた事務所の社長が、セレブとか大物芸能人が集まるパーティーみたいなイベントがあって、そこに私も行くようにって言われたのよ」



「うわ、何ですかそれ、無茶苦茶怪しいじゃないすか」



笹島が顔を顰める。



「まぁね。でもそういう集まりって結構あるのよ。顔を売ってコネクションを作る為に必要な事でもあるの。私も乗り気じゃなかったけど、社長の顔を立てる為にも、ちょっとだけ顔を出す程度って感じで参加したわ」



円堂はそのパーティーの常連だった。

アメリカで企業し、ある程度の成功を収め、再び日本へ帰国したらしい。


現在は友人の経営する映像関係の会社に勤めるサラリーマンだと言っていたが、何故アメリカの会社を引き払ってまで帰国したのかはわかっていない。



「円堂は若い子が好きみたいで、片っ端から女優の卵の子や、新人アイドルの子達に声をかけていたわ。私は関係ないフリをして遠ざけてたんだけど、向こうから声をかけてきたの」



円堂は女の扱いが上手く、その上相手を気持ち良くさせる巧みな話術に長けていた。



「でも相手は私からするとオジサンって感じだったし、あらかさまに口説いてるなってわかっても、ちっともこっちは乗り切れなかったわ」


「そりゃ、そうでしょうね……」



三年前でも当時の円堂は四十そこそこだ。

二十歳くらいのさらさには、実年齢よりは若々しい見た目だが、やはりただの「オジサン」にしか見えなかったらしい。



「でも、付き合ったんでしょ?じゃあ、好きになったんじゃない」



怜は綺麗に整えられたネイルを見せつけるようにビシっと人差し指を立てる。



「別に好きになったりしないわよ。それまで私、自分から誰かを好きになった事なかったし…」



そう言ってさらさはチラリと夕陽の方を見た。

夕陽の方はその視線を受けて、やや居心地悪そうに姿勢を崩す。



「最初に彼と会ったパーティーの後、彼から誘われて下のバーへ行ったのよ。その時にこの一週間の間、今と同じ時間に一回だけここに来るようにして、偶然また会えたら付き合おうって言われたの」



「うわ、それ最初からめっちゃ口説いてきてるじゃないっすか」



「…かなり乗り気だったのね」



笹島と怜はやや引き気味に顔を顰めている。

栗原柚菜と電撃結婚した際、彼は一般男性と紹介されていたが、どうやら芸能界に何らかのコネを持っている特殊な一般男性だったらしい。



「あの当時はまだ私も若かったから、それを面白いって思ったのよね。で、その賭けは彼の勝ちだっなんだけど、今思えば一週間、バーに通って偶然を装えば良かったのよね…」



「ははは…。まぁ、そうっすね」



「女ってほら、偶然とか奇跡とかって結構グッときちゃうから、そこを利用したんじゃないの?それで一年くらい付き合ったの。彼、お金持ちだから色々買ってくれたし、結構色々なところに連れて行ってもらったわ。まぁ、彼からしたら私は自分を高めてくれるアクセサリーのように社交の場に同行させたと思うけど、私も私で顔を売る事が出来たしメリットはあったわ」



結局円堂とは、そこで得たコネがきっかけになり、仕事が忙しくなった事をきっかけに疎遠になっていって別れた。



「別れたのは付き合ってしばらくした頃に映画の主演が決まってね、それから撮影でしばらく長野と東京の往復の生活になって、会えない日が続いてね…」


「あ、それ知ってるっす。確か女性騎手の話っすよね。あの映画、従兄弟と3回観に行きましたよ」


「さ…3回……」



興奮気味の笹島に夕陽は呆れたように肩を竦める。


「でもその主演で主題歌を歌ったりして森サラの名前が売れたんすよね」



「そうね。そこは彼に感謝しているわ」



さらさは薄く笑った。



「その後、彼は栗原柚菜と結婚したわね」


「もう別居して、離婚秒読みみたいだけどね」


怜は吐き捨てるように言った。



「それで、彼があの円堂教授の息子だとしたら、野崎教授は野崎詩織の……」



「………」



夕陽は眉根を寄せた。











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