第118話

夜の公園は人気もなく、ひっそりと静まり返っている。

園内に入ると怜が急にブランコに乗りたいと言い出し、彼女は早速ユルユルと漕ぎ出した。

まるで少女のようなはしゃぎようだ。


笹島はブランコには乗らず、ただ柵に凭れ、その様子を見守るように眺めている。



「大分風が冷たくなってきたわ。もう冬ね…」


「そっすね。莉奈さん。風邪ひかないでくださいよ」



そう言って、笹島は自分のジャケットを脱ごうとする。

怜はそれを片手で辞退した。



「平気よ。だって夜風が気持ちいいもの。……それより聞かないの?今日のコト」



ブランコを漕ぎながら、怜は笹島の方を見ずにただ夜空を見上げる。

東京の空は夜でも明るくて、白っぽい闇が広がり、星などないかのように見つけられない。


そんな中でみなみは自分だけの一等星を見つけたという。

それはどれだけ奇跡的な事なのだろう。


怜はまだこの白い闇の中にいる。



「聞いてもいいんですか?………その…アイドルのプライベートな部分ですよ」



それも自分にとっては「推し」の。

…という言葉を笹島は飲み込んだ。

すると怜は笑い出す。



「ふふふっ。ホント今更な事言うのね。それを聞く為にここへ来たんじゃないの?」


「へへっ……そっすね。んじゃ、改めて聞くっす。莉奈さん、佐野さんには伝えられたんですか?」


「……ええ。怖かったけど、ちゃんと言ったわ。あたしはあの時告白した、五年五組の早乙女莉奈だって」


「莉奈さん、カッコ良〜っ!」



笹島は軽く手を叩いて喜んだ。

怜は少し恥ずかしそうに俯く。



「で、佐野さんは何て言ったんすか?」



「彼、あたしが早乙女莉奈だって最初から知ってたわ。知ってて近くに来たって…」



「えぇー?じゃあ何で言わなかったっすか」



「多分あたしと同じ理由だったんじゃないかな。真実を相手に知られる事が怖かった…から」



「………マジっすか」



怜は昼間のやり取りを思い出す。

久しぶりに会った佐野隼汰は、少し痩せていた。

頬の辺りが痩けて、普段は綺麗に整えられている顎にも薄っすらと髭が生えている。


そんな彼を見るのは初めてだったので、それだけ彼の心にも、この件は相当なダメージであった事が窺える。


会ってすぐに怜は彼に真実を告げた。

すると佐野はすぐに自分も謝った。

そして自分も怜が初恋だったと告げたのだ。



「え、それって両想いじゃないっすか?」




当時の怜は容姿には恵まれなかったが、成績優秀でテストも100点以外取った事のないくらい優秀だった。

佐野はそんな頭が良くて、全国模試でもトップの成績で名前が上がるような怜に憧れを抱いていた。


運動の分野では自分もそこそこの能力はあるが、勉強の分野では怜に敵うはずもない。

いつしかそんな尊奉は恋に変わっていったという。


だから佐野は怜に見合うように自分磨きを頑張った。

怜が佐野に告白したのは、そんな時だった。



「ごめん……ちょっと無理。早乙女とは住む世界が違うっつーか………」



彼女も自分を好いてくれていた。

何よりも嬉しい言葉だったのに、口から出たのはそんな言葉だった。


自分はまだ怜に見合うものは身につけていない。

だから怜と自分はまだ別世界の住人のように、釣り合っていない。

そんな思いから出た言葉は彼女を深く傷付けた。



「彼は何度も謝ってくれたわ。あれからもずっと自分磨きを頑張って…。それで地元の友からあたしが東京へ出てアイドルを目指して色々なオーディションに応募しているのを知ったみたいで、それからオーディションのスポンサーに協賛している企業に就職してあたしを探し出したみたい」



「うわ、ストーカーっすか……ってまぁ、気持ちはわかるか」



笹島は思わず唸った。



「でもあたしその頃、既に整形してたし、何で地元の人が知ってんのよって感じよ」



「まぁ、今じゃそういうのって中々隠せないっすよね。ネットがこうも発達した世の中じゃ、年齢すら誤魔化せないですし」



「……ホントにそういうところが厭よね。秘密にしたい事が秘密に出来ない世の中って」



怜はそう言って再びブランコを漕ぎ出す。

その横顔はとても綺麗で、神秘的だった。


お互い両想いだという事は、もう彼女は佐野のものだという事だろう。

彼女はきっと、近い内に笹島家を出て彼のところへ行く。


ブランコのチェーンを握る白くて細い指も、漕ぐ度にキラキラ揺れる長い髪も、全て佐野のものなんだ。


そう思うと、笑顔の彼女を見て嬉しい気持ちの中に悔しさや、佐野に対する醜い嫉妬心が溢れてしまいそうになる。


おめでとうと言いたいのに、なかなかその言葉が出てこない。



「耕平くん?どうかした」



「いいえ、別に……そっすか。良かったっす」



怜はその言葉に笑みを浮かべる。



「それでね、あたし、彼に再びプロポーズされたの……。全てわかった上で結婚してくれって」



「……………!?」













スミマセン。

こんなイイとこで今回終わって…。

帰ったら続き書きます。

しかし笹島がこんなに注目される日が来るとは…(T_T)

良かったなぁ、笹島。

運命はどう転ぶか。


次回、笹島の一等星のプロポーズ最終章。

お楽しみに。


でも怜サマは恋愛初心者には難しいお相手なのは確かです。



















 


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