第117話
「いやぁ、まさかお前がちゃんと告るとは思わなかったわ。少し見直したぞ」
「おい、「少し」かよ。俺、人生イチ頑張ったつもりだったんだけどな」
あれから怜に告白した後、笹島は怜を気にしつつもしっかり出社して業務を熟し、昼休みを迎えた。
今日の社食は幾分人も増えて、そこそこの賑わいだが、まだ空席がポツポツとある。
当然ながら怜からの連絡はなかった。
ついもしかしたら怜が何か自分に連絡をくれるような甘い期待が過り、何度もスマホを見てしまう自分が情けない。
向かいで何かと気にかけてくれる友人の言葉すらあまり耳へ入ってこない。
「怜サマ、今頃上手くいってんのかなぁ…」
「さぁな。でもきっと上手くいってると思おうぜ」
「……だなぁ。ふぅ。あ、そういえば今日みなみんの誕生日じゃん。公式サイトにケーキの写真アップしてたな。夕陽はこの後、一緒に祝ったりすんの?」
すると夕陽は力ない笑みを浮かべた。
「そうしたかったんだけどな。今、舞台の稽古で全然連絡つかねーんだわ」
「トロエー、今じゃ売れっ子だもんな。来年の新春時代劇も決まったみたいだし、クソ忙しいんだろうな」
「仕方ないさ。そういう相手を選んだんだからさ。今更そこに不満はないよ」
夕陽は微かに笑ってトレイを持って立ち上がる。
「夕陽は達観してるなぁ」
「そうでもないよ。正直、痩せ我慢みたいなのもある」
「ははっ。そっか。そっか。でもみなみんも20歳か…大人だね」
「そうだな…。あいつ、まだ20歳だったよな」
笹島に言われて夕陽は頷く。
去年、彼女と出会った時はまだ18歳の新人アイドルだった。
そして秋に19歳を迎えた時は、あの白昼に起こった襲撃事件の療養中だったので祝うどころではなかったし、交際もしていなかった。
その彼女が今日、20歳を迎える。
本当なら今度こそ、祝ってあげたかった。
プレゼントだって用意している。
メッセージだけの素っ気ないやり取りでの祝いの言葉より、直接彼女に伝えたかった。
生まれてきてくれてありがとうと。
まぁ、冷静に考えると、まるで自分の為に彼女が生まれたかのような言い方で、何を言ってるんだと頬が熱くなるのだが、とにかくそう伝えたかった。
きっと彼女は今も大事な舞台の為に稽古を頑張っている頃だろう。
「さて、俺らは俺らで頑張ろうぜ」
「へぇへぇ…。現実は辛いなぁ」
笹島もトレイを手に、ノロノロと立ち上がる。
「はぁ…。今まで怜サマの熱愛報道みて何度もムキィーってなってたけど、今回はさぁ、止めようと思えば止めらたんだよなぁ…。俺ってマジでバカだよなぁ」
「笹島……」
笹島はしょんぼりしながら、トレイを返却口へ戻した。
その背中は丸く小さく見えた。
☆☆☆
夜。
何となく早く家に帰るのが憂鬱で、ついギリギリまで残業してしまった笹島は、疲れた身体を引きずるようにして家まで歩いていた。
そして公園の近くまで来た辺りで、何者かの背後に気配を感じた。
「こら、遅いぞ。随分待ったじゃない」
「え?……り…莉奈さん!?」
公園の茂みから姿を現したのは、少し不機嫌な乙女乃怜だった。
「帰る前にあたしと少し話しましょ?」
「……………」
いよいよ笹島に運命の時が訪れようとしていた。
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