第114話「喜多浦陽菜side*見えない鎖*」
「ねぇ、一十さん。人気アイドルが結婚する時、相手から引退して家庭に入ってくれって言われたらどうする?」
「えぇ〜、陽菜ちゃん、誰かにプロポーズされたのかい?」
ここは都内にある秋海棠一十のプライベートスタジオ。
一十はこのスタジオの他にも都内近郊に二つのスタジオを所有している。
今日は朝から午後に納品の締め切りが迫る来年春に始まるドラマ用の楽曲のマスタリング作業に追われていた。
陽菜はスタジオの隅の一段高くなったスペースに腰を下ろし、一十の作業をぼんやりと見守っていた。
「…違いますけど。今朝の栗原柚菜の別居報道の件で……」
そこで一十は作業の手を止めて、「あぁ」と呟く。
「その原因が家庭を守る主婦になれって事なのかい?これもまぁ、言い得て多様性に欠ける物言いだね」
「マスコミが勝手に解釈した事かもしれないですが、でも難しいんですかね」
陽菜は伏し目がちに床を見つめている。
すると一十は立ち上がって、陽菜の前へ移動する。
「一十さん?」
「キミの好きにしたらいいと思うよ。陽菜ちゃん。キミの心の思うままに。だってキミはボクと初めて出会った時からずっと自由なんだから」
陽菜の瞳から涙が一筋伝う。
「私は……私は……」
「うん…」
「ずっと…一十さんと一緒にいたい…です」
一十は優しく陽菜を抱きとめた。
「貴方がすき……。結婚したいくらい」
一十の胸に顔を埋め、陽菜がポツリと漏らす言葉に一十は軽く息を吐く。
「本当に不器用だよね。キミもボクも…」
そして一十は陽菜から身体を離す。
「ごめんね。陽菜ちゃん。さっきも言った通りキミは自由だ。だけどボクは…違うんだ」
「え?それはどういう事ですか」
一十は切なげに笑う。
「ずっとキミにはボクが女性を愛せないと言っていたけどね、それは違うんだ」
「…そうですよね。だって一十さん前はよく外泊報道されてましたし」
「あれはね、ある意味当て付けのようなものだったからね」
「当て付け?」
「あぁ、勿論キミの事じゃないよ」
一十はそう言って、ゆっくり立ち上がり作業机まで移動すると何かを手に取って戻って来た。
「一十……さん?」
少し惚けたように陽菜が顔を上げる。
一十はその手に何かを乗せた。
それは一枚の名刺だった。
秋海棠総合医院。
名刺にはそう印字されていた。
陽菜でも知っている大きな病院だ。
そして一十の実家でもある。
よく芸能人等、著名な要人が利用する事でも有名なので陽菜にも馴染みが深い。
「秋海棠総合医院…あ、一十さんのご実家でしたよね。医院長、女性なんですね」
医院長、秋海棠綾乃。
名刺は医院長のもののようだ。
こんな大病院の医院長が女性だという事に陽菜は単純に驚いた。
こういう病院は親族経営が多いので、彼の親族の名前だろうか。
すると一十は悲しげな顔で陽菜から目を逸らす。
「綾乃はボクの書類上の妻だ」
陽菜の顔から表情が消えた。
「嘘……結婚してたんですか?」
「書類上だって言ったよね。彼女とは生活を共にしていないし、夫婦関係もない。これは父から出された、ボクがこの世界で自由に出来る条件だったんだ」
「……そっか。一十さん長男でしたよね」
やはり病院は本来一十が受け継ぐものだったらしい。
「そうだね。だから綾乃が継ぐ形で今の病院は存続している。彼女は確かボクの7つ上だったから34かな…何年も会ってないから忘れたな…。まぁ、ボクは表面上は自由だけど、こうして見えない鎖に繋がれているんだ」
「そんな…」
「本当はキミが独り立ち出来るまで見守っているつもりだったんだけど、少しキミと距離が近過ぎたみたいだね。本当にごめん」
「…………」
一十は静かに部屋を出て行った。
「……だったら私はその鎖を壊したい。ここで諦めるなんて出来ないよ」
秋海棠一十の秘密はこれで全部です。
この後を書くかは決めてないんですよね。
昼ドラのようなドロドロ展開になって長くなるから。
すると夕陽とみなみの本筋から乖離していく。
書きたいから書いちゃおうかな…。
まずは怜を何とかしてからですね。
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