第97話

「そういえば笹島、今女の子と同棲してるんだって?」


「ぶっ…!」



唐突に切り出した三輪の言葉に笹島が盛大にハイボールを吹き出す。



「ゲホゲホっ…、なっ…それどこで聞いたんだよ」

 


涙目になりながら笹島が三輪を睨む。

ただ、唯一事情を知っている夕陽だけは口を挟まず、それを傍観する事にした。



「どこって、サウナでお前の親父さんから聞いたよ。何か得意げに「あの耕平が一丁前にオンナ、家に連れ帰ってよぅ」…って」


  

「あんのお喋りオヤジめ〜っ!」



笹島はアフロを掻きむしって憤慨する。

三輪は週に二回、笹島の家の近くにあるジムへ行った後、隣のサウナを利用しているのだ。

笹島の父親は、仕事上がりにその更に隣にある銭湯を利用しているので、たまにサウナで顔を合わせる事があるという。


まぁ、今まで全く女っ気のなかった息子が突然、家に女の子を連れて帰ってきたのだ。

親としては自慢もしたくなるだろう。



「……で、どうなんよ?その女の子との生活は」


「それ、俺も聞きたい。どんな子なんだ?」



三輪と佐久間が興味津々で笹島に迫る。

夕陽としても、あれからどうなったのかまだ詳しくは聞いていないので気にはなる。


確か彼女はアイドルグループ、トロピカルエースのリーダー、森さらさの義理の妹だった。


現在さらさの母親はもう彼女の父親と離婚しているので、他人という事になっているが、笹島は推しの所属するアイドルグループとの繋がりに興奮していたはずだ。


すると笹島はバツが悪そうに視線を上向きにして頬を掻く。



「…あ〜。まぁ、確かに一緒に住んでた時もあったけど、今はもう違うんだ」



「え、もしかして破局?」



「いやいや。そうじゃなくて。大体付き合ってねーし。彼女今、三茶の和菓子屋で住み込みの修行してるんだ」



「三茶って、確か…お前の兄貴の店じゃね?」



三輪が卵焼きを切り分けながら、口を開く。



「そ。何か急に目覚めたみたいでさ。向こうのオヤジさんも彼女を気に入って、今は昔兄貴が住み込みで使ってた店の上の部屋で生活してる」


「そうだったのか…」



夕陽はそんな事になっていたとは知らなかったので、最近何となく元気がなかったのはこの事だったのかと笹島の方を見た。



「マジかよ〜。じゃあもう告ったのか?」



「いや、それは……ないかな」



佐久間の問いに笹島は寂しそうに答えた。



「何でだよ。どういう事情か知らないけど彼女の事、好きだから連れて来たんだろ?」



「うん…まぁ、多分最初は好きだったよ。でもさ、兄貴に早く告白しろって言われた時、何か違うなって思ってさ」



「笹島…?」


 

三人は笹島に注目した。



「俺さ、周りに彼女欲しいとか早く童貞卒業してぇって言いまくってたけど、いざ付き合うって考えたら全然リアルに重ならなくてさ…。まだ俺の中では「付き合う」とか「結婚」とかって、マンガやドラマみたいな作り物を第三者側から見てるだけの、そんなフワフワしたモンだったんだよな」



笹島は心の中を整理するように独白する。



「だから、そんな気持ちで告白なんて出来ねーなって」



「笹島…。でもいいのか?」



つい夕陽は口を出していた。

笹島は無理矢理笑顔を作る。



「ああ。俺、無理はしない事にした。今は推し事が恋人。その内さ、リアルに付き合うビジョンが重なる女の子が現れるって思う事にするわ。さぁ、しんみりすんのは終わりにしようぜ」



そう言って笹島は追加のハイボールをオーダーした。



「でもさー、それじゃその子、兄貴に取られたりしないの?」



三輪の言葉に笹島は一瞬動きを固める。

しかしすぐにそれを笑い飛ばした。



「はははっ、それはマジない。だってアイツ、バツイチのオヤジだぞ?あんなヒゲのマッチョ達磨にナユタが………」


 

「笹島?」



「い……いや。何でもない」



何か思い当たるものがあったのか、笹島は急に挙動不審になる。



「……大丈夫だよなぁ?」



「?」



その頃、ナユタと笹島の兄が働く和菓子屋に小さな事件が起ころうとしていた。














うーん。

読者様、鋭いなぁ(*´Д`*)

内心ドキドキでした。


下手な返信が出来ませんでしたww


まぁ、多分そうなりますね。

結局、笹島に合う子はいるのかな〜。


最終章なので、最後にやりたい事全部詰め込んで終わらせたいと思ってます。

でも無理にくっつけたりはしないです(^_^;)


ごめんよ。笹島…。














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