第92話
「……何で、枕が三つ並んでるんだ?」
ハプニング続きの入浴タイムが終わり、ぐったりした顔で寝室があるというロフトへ上がった夕陽は、目の前に広がる光景に後退りした。
「修学旅行みたいだよね〜。行った事ないけどっ!」
「ぐわぁっ!?」
いきなり真横から何か柔らかいものが飛んできた。
突然の事に避けきれず、夕陽は人形のように布団の上に倒れ込む。
よく見るとそれは枕だった。
投げたのは勿論、みなみだ。
「おいっ!枕は投げるモンじゃねぇぞ」
「えー、投げるモノだよ。それ以外に使い道ないじゃん。それっ!」
「なっ…止めっ……ぐはぁっ!」
起き上がった夕陽は再び布団に沈められる。
「コノヤロ…」
額に青筋を浮かべ、夕陽はゆらりと立ち上がる。
そして先程投げつけられた枕を掴もうと手を伸ばすが、何故かその手は空を掴む。
「何ぃっ?」
「隙ありっ!」
何と布団の中からいつの間に潜んでいたのかさらさが飛び出し、容赦なく枕を夕陽へ投げ付ける。
「ぐはぁっ!?」
またもや布団の上に叩きつけられた夕陽は、すっかり戦う気力を無くし、そのままうつ伏せになったまま動かない。
「あれあれ?夕陽さん。もしかして死んじゃったの?」
「そんな事あるわけないでしょ」
その様子にみなみとさらさがゆっくり近付いてくる。
「ゆ…夕陽さん?」
「王子〜」
「うがぁっ!二人とも早く寝ろ」
「きゃっ」
二人が近付くと、夕陽は待ってましたとばかりに起き上がり、二人を布団で包んだ。
「ちょっと〜、これはないよ。夕陽さん」
「煩い。お前らが大人げない真似するからだ」
夕陽はため息を吐いた。
修学旅行の定番だというが、夕陽にもそんな経験はない。
旅行先はオーストラリアだったし、部屋も二人部屋だったので、大勢で寝る事もなかった。
「もう。王子ったら、女の子二人をこんな風に拘束して何するつもり?」
「何もしませんよ……。色々と面倒なんで早く寝てください」
☆☆☆
「結局、川の字かよ……」
疲れ切った夕陽は真ん中の布団に寝かされ、所在なさげに身体を縮こませる。
このログハウスには寝室と呼べる部屋はロフトしかないらしく、夕陽が何度もリビングフロアに寝ると言っても、さらさは聞いてくれなかった。
寝返りを打ちたくとも、両サイドにアイドルの女の子がいる。
ファンからすると夢のような状況だろうが、今の夕陽には苦行でしかない。
「……朝までこのままか」
出来るだけ両サイドを見ないようにして朝が来るのを待つ。
ガチガチに緊張したまま瞼を閉じてみるが、閉じた事で余計に神経が鋭敏になり、落ち着かない。
二人の吐息がやけにリアルに聞こえるような気がして、よりソワソワさせる。
「……ねぇ、夕陽さん。起きてる?」
その時、右側に寝ているみなみがそっと声をかけてきた。
「いや。寝てる…」
「……嘘つき」
「……………何だよ」
仕方ないので夕陽はみなみの方へ身体を向ける。
そこにはこちらを見つめる蠱惑的な瞳があった。
思わず夕陽は息を呑んだ。
暗闇でも桜色の口元や、白く浮かび上がる細い首筋、よれたシャツの隙間から覗く浅い谷間がわかり、色々と目の毒である。
別に彼女だから、そう思ってもおかしな事ではないのだが、今は隣にさらさがいる。
何とか自制しなくてはならない。
夕陽は出来るだけみなみの方を見ないように顔を天井に向け、彼女の言葉を待つ。
「手、眠るまで繋ぎたいんだけどダメ?」
「は?いや……ダメって…うっ」
何とも可愛らしいお願いだが、今彼女に触れてしまうと、色々想像が膨らんでしまいそうで、精神的にキツい。
「………どうぞ」
「うん。ありがと」
しかし痩せ我慢の夕陽、そっと片手を布団から出した。
すると、その手にしっとりとした小さな手が重ねられる。
その感触にドクンと心臓が高鳴る。
このまま衝動的にその手を引き寄せて、抱きしめたくなるのを何とか押し留める。
そんな暴力的な衝動と戦う夕陽に更に追い討ちがかかる。
何と反対側から、何かが夕陽の布団に侵入してくる気配を感じた。
思わず身を硬くする夕陽。
「?」
すると訝しむ夕陽の左手に温かな手が絡められた。
所謂、恋人繋ぎである。
「………みなみだけズルいじゃない。私もいいよね?」
「いや…何なんですか、これ」
真ん中に横たわり、両手を二人のアイドルに拘束されている今の状況は一体何なのだろう。
「……マジで眠れねぇ」
全てを諦め、夕陽はただ布団の上で我が身に起こった幸福なようで不運な状況を呪った。
また細切れ…。
この夜のお話はもうちょっと続きます。
でも今日は仕事が夜まで詰まってるので、ここまでにします。
本当はお風呂イベントから朝までのお話を一話として考えていたのにスミマセン。
夕陽さんはこの辛い状況のまま次回へ続きます。
それが終わったら終章の○○編に入り、いよいよ結婚が見えてきます。
上手く表題に重なるといいのですが…。
ちなみに夕陽さんのお相手は別にさらさでも良かったし、怜でも良かったんですよね。
ゲームのように別ルートでも書けたら面白いのですが…。
ではまた次回、よろしくお願いします(^ ^)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます