第88話

山の澄んだ空気に、どこからか野鳥の声が聞こえる。


森さらさは山小屋のウッドデッキで台本のチェックをしていた。

この山は知人が所有する山で、さらさは一人で考え事がしたい時、いつもここを借りている。



「……何でこんな事になっちゃったのかな」



来月から撮影が始まる連続ドラマの台本を開いたものの、頭の中は先日事務所での事ばかり考えてしまう。


王子…こと、真鍋夕陽には交際している彼女がいた。

その相手は同じメンバーの永瀬みなみだった。



「………………」



無意識にさらさは唇を噛み締めていた。

確かに自分は舞い上っていたかもしれない。初めて感じた気持ちに、周りが見えていなかった。


今はただ、様々なところに迷惑をかけてしまい、申し訳ない気持ちで一杯だ。


マネージャーには明日には戻ると連絡を入れてある。

その時、自分はちゃんと笑えるだろうか。



「あ……雨」



何度目かのため息を吐いた時、ポツポツと台本に雨粒が落ちてきた。


山の天気は変わりやすい。

先程まで晴れていたと思ったら、次の瞬間には崩れている。


さらさは慌てて台本をしまうと、下へ降りて出したままの食器を回収する為に外へ出た。



「もうっ…、すごい雨っ」



外へ出ると、空はあっという間に辺りは雨雲に覆われ、地面を穿つような強い雨が降っていた。


さらさは片手で頭を覆い、手早く外に出されたテーブルの上の食器を回収していく。


その間も雨は容赦なく降り、さらさの白いワンピースを濡らしていく。



その時、不意に自分の周囲の雨が遮られた。


さらさは傘を差しかけられたのだとわかり、弾かれたように顔を上げた。



「折り畳み傘の王子?」



「…ん?何の事?」



さらさは希望に満ちた顔を上げたが、傘を持っていたのは王子ではなく、永瀬みなみだった。


みなみは突然「王子」と呼ばれ、首を傾げている。



「あっ…な…何でもないの。今のは忘れて」



さらさは早口でそう言うと、突然現れたみなみを改めてじっと見た。


「どうしてここに?」


「ふふっ。みなみ王子が迎えに来たんだよ。森さん。一緒に帰ろう?」


「みなみ……」


みなみは傘を持つ手とは逆の手をさらさに差し伸べる。

思わずさらさの瞳に涙が滲んできた。


するとみなみがさらさに顔を寄せて囁く。


「それにさぁ、あっちの王子様より私の方がずっと王子様っぽくない?」


「え?」


振り返ると、山小屋の入り口付近で杖を持ち、ヨロヨロガクガクしながら老人のような足取りでこちらへやって来る男性の姿があった。


「あれ、誰?」


思わずさらさがソレを指さすと、みなみが呆れたように肩をすくめる。



「え、折り畳み傘の王子様じゃないの?」



「……多分違うと思うわ」



さらさはそっと彼から目を逸らした。



         






スミマセン、今度はタブレットの故障で今回はここまでしか入力出来ませんでした。

何をやっても全くWi-Fiに繋がらなくなってしまったので、新しいものを用意する事にします。

トラブル続きでさらさ編、四話で終わる予定が終われず申し訳ないです。


さて、さらさ編の終わりが近付き、そろそろ物語のゴールが見えてきました。


物語はクリスマスで完結する予定です。

最後は皆で楽しく騒々しく盛り上がって終わりたいと思います。


結婚後のお話はやらない予定ですが、別枠として更新している番外編で、ちょっとした短編をいくつか発表したいなと思ってます。





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