第83話「森さらさside*さよなら王子様*」
狭い会議室には、三人の幹部達がさらさとマネージャーの内藤を囲むように座っている。
社長とは二、三会話をしたが、特に咎めるような言葉はなく、幹部たちに事実確認をして今後の事を話しなさいとだけ言われた。
特に恋愛禁止という規約もないので、差したる問題もなければ、乙女乃怜の熱愛同棲報道のように一部事実と認め、様子見のような方針となるだろう。
しかしこういう事態に不慣れなさらさは、緊張で真っ青な顔をしている。
隣の内藤は「大丈夫だよ。落ち着いて」と声をかけるが、その重苦しい空気に息を呑む。
「まずは事実確認をしたいのですが、この記事は事実なんですか?」
四十代半ば辺りの幹部の男性が、タブレット画面をこちらへ向けてきた。
それは何度も見てきた、さらさと夕陽の「デート報道」の写真だった。
さらさは気合を入れる為、大きく息を吸い込んだ。
「いえ、この方とはまだ恋愛関係にはありません」
「まだ…というと、今後そのような関係になる予定にあると?」
「ええ。はっきりとは申し上げられませんが、私にはその意思があります。でも現段階ではそのような関係ではないんです」
「………」
思い切って、さらさはありのままを伝えた。
この報道は自分にとって良いきっかけになるかもしれないと。
この件で、さらさが交際を認めたら、二人の関係は大きく進展するかもしれない。
相手は何も問題のない一般男性なのだ。
別に他に恋人や家庭があるわけでもない、素行に問題があるわけでもない、普通の男性なのだ。
きっと彼と交際出来たら、この光のない生活がもっと変わるはずだと思った。
「わかりました。まぁ、相手も一般人のようだし、問題はなさそうですね今は温かく見守ってくれというような見解をマスコミと事務所のホームページで伝えるよう、広報に出しておきます。後は内藤、君の方からサポートしてくれるかい?」
「それは…えぇ。わかりました」
幹部たちはそう言って簡単に話を済ませると、早々に立ち去って行った。
あまりにあっさりしたもので、さらさは全身から力が抜けた。
「はぁぁ。疲れた。怜の時より早かったね。内藤さん」
緊張が解けて、気分的に少し楽になったさらさは内藤に微笑みかけた。
しかし内藤は硬い表情のまま、黙って手元のタブレット端末を操作している。
「内藤さん?どうかしたの」
「ねぇ、更紗。もしかして、この君と一緒に写ってる男性は真鍋夕陽さんという名前じゃないかい?」
「えっ、何で内藤さんが彼の名前を知ってるの?もしかしてもうマスコミがそこまで調べたの?」
まさか彼の名前を当てられるとは思っていなかったさらさは動揺する。
「いや、違うんだ。ただ彼とは去年、ちょっと面識があってね……」
「去年?面識って、内藤さん。一体どこで彼と会ったんですか」
鼓動が早まる。
この先を聞いてはいけない予感がする。
だけど聞かずにはいられない。
さらさは不安げな顔で内藤を見た。
「彼とは去年、街中でみなみが暴漢に襲われた件で一度会ってる」
「………みなみ?」
内藤は目尻を切り上げ、ゆっくり口を開く。
「彼は永瀬みなみの……」
そこまで言った途端、さらさは立ち上がり、会議室を出て行った。
「更紗っ、待つんだ!」
慌てて内藤が呼び止めるも、さらさは聞かず、飛び出した。
「あっ…、森さ……ん」
会議室を出ると、すぐに心配そうな顔の乙女乃怜と永瀬みなみが駆け寄る。
さらさは厳しい目つきでみなみを見ると、地を這うような低い声で問いかける。
「真鍋夕陽は貴方の恋人なの?」
「!」
みなみは驚いて口元に手を当てたが、やがて静かに頷いた。
「はい…。そうです」
するといきなりさらさがみなみの頬を張った。
その衝撃にみなみはそのまま床に崩れる。
「森さんっ!」
堪らず怜が声を上げるが、さらさはそれに反応すらせず、二人に背を向ける。
「怜。その様子じゃ貴方も知ってたのね…。騙されたわ」
「森さん、そうじゃなくて…」
怜が悲壮な顔で詰め寄るが、さらさは事務所を出て行った。
その後、森さらさは姿を消してしまった。
事務所の看板タレントであるさらさの失踪は黙され、社外秘となったが、事態は混迷の一途を辿る。
こんないいところで申し訳ないのですが、リアルの都合で3〜4日更新お休みさせていただきます。
本当にすみません。
このさらさ編は残り4話くらいで終わるはずです。
分裂していたトロピカルエースに追い討ちをかけるような展開。
グループの結束はどうなるのか。
笹島に春は来るのか…。
3〜4日後にまたお会いしましょう(^_^)
それからいつも読んでくださってありがとうございます。
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