第68話「森さらさside*すれ違いの恋心*」
「あっ、更紗。良かった〜。君だけでも捕まって」
陽菜から言われた通り、楽屋へ戻る途中で焦った様子の内藤に声を掛けられた。
「内藤さん、陽菜から聞きましたよ。みなみの身内の方が来てるって」
「うん。そうなんだよ。だけどまだ楽屋に誰も戻ってなくてね。悪いけど君だけでも行ってくれないかな?」
ライブ終了後はいつも、こんな調子で中々メンバー達が揃わない。
大体それをまとめるのもさらさの仕事のようなものなので、素直に頷く。
「ええ。私もそのつもりで戻ったんです。あ、そうだ。内藤さん、どこかで伊藤監督見ませんでしたか?最後なので一言ご挨拶したいんですよ」
「伊藤さんかぁ。僕もまだ見てないけど、他のメンバー集めがてら探してみる」
「お願いしますね」
そう言ってさらさは内藤と別れ、楽屋の扉を開いた。
「おつかれさまです〜」
楽屋の扉を開くと、派手なアフロヘアの男がカメラを片手にメイクさん達と談笑している光景が目に入った。
「あーっ、森サラ!ホンモノの森サラキター!」
さらさが顔を覗かせると、アフロの男は歓喜に湧いた。
多分、彼がみなみの恋人なのだろう。
かなり想像と違っていたが、少し変わった感性のみなみなら十分頷ける。
………これがみなみの彼氏…ね。
面食いだと思ってたけど、そうでもなかったのね。
まぁ、確かに性格的には良さそうだけど……
「初めまして、森さらさです。今日は楽しんでもらえましたか?」
営業用スマイル全開で、さらさはアフロの男に笑いかける。
「ぐはぁっ、その笑顔に撃ち抜かれたぁぁっ。あのっ、俺、笹島耕平といいます。独身の一般会社員です!それからライブ最高でした。むちゃくちゃ感動しました」
「ふふふっ、ありがとう。これからも応援よろしくね」
「勿論ですよ!もう地獄の果てまでついて行きますとも」
笹島は興奮気味に捲し立てる。
どうやらかなりディープなファンのようだ。
「みなみのどこが好きなの?」
「へ?みなみんですか。まぁ、みなみんも可愛いっちゃ、可愛いんですけど、俺は怜サマ推しっすから。……あ、スミマセン。勿論森サラさんも素敵です」
「え、怜を推しているの?」
さらさは驚いたように目を見開く。
……それって彼女は推しの対象にはならないって事なの?
恋人が他のメンバーを推していても、あの子は気にならないのかしら。
本当に変な子たちだわ……
「怜サマは俺の全てっすから。今回のツアーも全17公演中11公演制覇しました」
「そうなの?凄いわね」
笹島は得意げに胸を張る。
それは彼女への愛の表れなのか、それとも推しである怜へ向けられたものなのか、さらさにはわからなかった。
「あ、そうだ写真いっすか?SNSとかにはあげたりしないんで、お願いします」
「そんなの別にいいわよ。メンバーの身内やゲストルームの人達にもしてる事だから」
笹島はカメラを抱え、申し訳なさそうに申し出て来た。
相手はみなみの恋人だ。
さらさは快く頷いた。
「感激っす!じゃあ、あの…お願いします」
笹島はメイクさんにカメラを渡すと、遠慮がちにさらさの横に並んだ。
そしてメイクさんの合図と共に何枚か写真を撮った。
「ありがとうございます。もうマジで感激しました」
「いいのよ。後はサインもどうぞ。どこに入れます?」
「マジっすか。ああっ、もうミラクル連発し過ぎて明日からの生活が怖いくらいですよぉ」
陽菜からは写真とサインをするように言われていたので、そうしたまでなのだが、笹島はいちいち涙を零さんばかりに感動する。
「じゃあ、このツアーTシャツにお願いしますっす」
「わかったわ。それからこれは新曲のCDね。全員のサインが入ってるから、よければ持って行って」
「うぉぉぇっ、俺、明日死ぬの?」
「……何か、みなみと同じ匂いを感じるわね」
やはり二人が恋人というのは本当らしい。
そう思いながら、さらさはTシャツにサインをした。
「ごめんなさい。遅れました〜」
…と、そこに怜とエナが楽屋に戻って来た。
それを見た笹島は文字通り飛び上がる。
「あぁ、二人とも良かった。悪いけど、私伊藤さん探したいから、彼の相手を頼める?」
「了解っ。あ、伊藤監督ならステージで皆と記念撮影してましたよ。今ならまだそこにいると思います」
「本当?じゃあ後は頼むわね」
「任せてください」
エナの言葉にさらさはすぐに動き出す。
しかし楽屋を出たところで、一瞬さらさの足が止まった。
「お…王子?」
向こうの通路からやって来たのは、さらさが焦がれる相手、折り畳み傘の王子こと、真鍋夕陽だった。
「どうして王子がここに?」
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