第49話

「そうだなぁ…。俺もそうだったけど、まだ普通十代の子は付き合う=結婚って結びかないと思うぜ」


笹島はスマホのゲームをしながら、ポテチを口に運ぶ。


夕陽は久しぶりの笹島家に来ていた。


一度自分の考えを整理したくなったのだが、話題が話題だけに、相談する相手は唯一事情を知る笹島一人しかいないのが不安なところだ。


「まぁ、そう言われると俺もなかったかな」


夕陽は自分がみなみと同じ19歳の頃を考えてみる。


あの頃の自分は大学生だった。

大学へ入ってから彼女が出来たのは2回生の時だったので、19歳の時に彼女はいなかったのだが、もしいたとして、その相手から結婚を切り出されたら自分はどう答えただろう。


「うーん。例え好きでも、結婚は断ったかもな。ちょっとその年齢で背負うには重いっつーかさ」


「だろ?きっとみなみんもそんな感じじゃね?ま、それプラス彼女はアイドルなわけだし」


「………」


アイドルとの恋愛すら厳しいのに、結婚ともなると更にハードルは高くなる。


「それにさ、今トロエーって勢いにノッてきてるじゃん。最初はあまり人気なかったみなみんも最近じゃ、結構推してるヤツ見かけるし、やっぱ今すぐとかは無理じゃね?」


「そうだよなぁ」


夕陽はベッドに背を預け、窓の外の夕空を眺める。


「つーかさぁ、マジで夕陽はみなみんと今すぐ結婚したいわけ?」


「え?いや、まぁ確かにプロポーズはしたけど、それは今じゃなくて、人気アイドルになったらって……」


「もう既にそうなりつつあるじゃん」


「まぁ…そうだな」


スマホを見ると、トロエーの話題で一杯のニュース画面が広がる。

その中で元気な笑顔を見せるみなみが目に入る。


「それはさぁ、人気が出れば出るほど難しくなっていくんだろうな。大体ゆっずーだって、22くらいの時に若手映画監督と通い婚報道されて、バッシング酷かったし」


「そんな事あったのか?」


「あったよ。ドラマの「ダブルハニー」で当たり役取った頃っ。そん時もショックで学校休みたくなったし」


「すまん。知らねーわ」


「おいおい、そんなんでよくゆっずーのファン名乗れるな。恥ずかしいと思え」


笹島は口からポテチの屑を飛ばしながら力説してくる。


「別に俺は栗原柚菜のファンじゃねーし。つかどちらかと言えばお前の方が恥ずかしいわ」



「何でだよ!」



笹島はスマホをベッドの上に放り投げると、大きく伸びをした。


「まぁさー、何で夕陽が急に結婚意識したのかわからんし、俺にはそんな気になった事もないから、俺個人の意見になるけどさ、アイドルが相手以前に、まずお前が立ち止まって考えるべきは何で結婚したいのかってところからだろ」


「何で?……か」


そんなのは考える以前にわかっているつもりだった。


好きだから結婚したい。

それ以外に理由を見つけないとならないのだろうか。


笹島は胡座を組み、何か言葉を探すようにアフロに手を突っ込む。


「俺はさぁ、付き合う事と結婚は別物だと思うワケ。前者が幻想なら後者がリアル。幻想はそこに生活臭ねーけど、リアルはそうじゃない。本人だけいれば完結って世界じゃなくて、もっと広い範囲。相手の家族とか先の将来とか全部と向き合わなくちゃならないって事だよ」


「笹島…、お前珍しくまともだな。元旦に財布スラれて開眼したか?」


「それ思い出させんなよ〜。あれから警察に届けたけど、出てこなかったんだぞ。クソっ。ゆっずーの限定アクキー、惜しかったなぁ」


しかし笹島の言葉は夕陽の胸に響いた。


「結婚はリアルねぇ…」


「でもさ、俺が一番しんどいのは、もしこの時点でみなみんがお前と電撃結婚発表したらトロエーが存続危機になっちゃう事だよ」


「……そこかよ」


「頼むっ。後5年…いや3年は我慢して、俺に夢を見させてくれ!」


笹島は懇願するように夕陽に擦り寄る。


「なっ…何だよそれ。お前、確か俺たちの事、応援するとか言ってなかったか?」


5年なんて待っていられるかと夕陽は笹島を蹴飛ばす。


「いやいや、そこは変わらないけど、今はまだデビューしたばかりだしさー、もうちょい見たいじゃん。5人のトロエーをさ」


「……まぁ、それは俺もわかるよ」


自分のしようとしている事は、栗原柚菜の結婚時、笹島が陥ったような虚無感を与え、ファンから推しを奪うような事なのだろうか。


「あ、そういえばさ、そもそも、そのプロポーズ、返事貰えたん?」


そこで夕陽は笹島をハッとしたように見た。



「いや…。聞いてないなぁ」


「マジすか?」


「……まさか、俺の空回りなのか?」


夕陽は頭を抱える。

そんな夕陽の肩を同情するように、万年彼女ナシ男が叩く。



「まずは相手の気持ちの確認からじゃね?」



「……だな。だが、その前に何かお前、歴戦のチャラ男臭が鼻につくから殴っていいか?」


「はぁひぃ?」





















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