第35話

「だから別にクリスマスだからって、ああしなさい、こうしなさいって事はないワケよ」


「……何が言いたいんだか、わかりかねるんだが?」


赤と緑の色彩で賑わう街並みを夕陽は笹島と一緒に買い出しの為、歩いていた。

今日はクリスマスイブ。

当然街は朝から楽しげなカップルや親子連れで賑わっている。


夕陽の会社では、クリスマスイブの就業後に一時間程度のちょっとしたパーティーを開くのが恒例になっていた為、こうしてジャンケンに負けた笹島は買出しに出る事になった。

夕陽はそれを見兼ねての付き添いだ。


「だからクリスマスだからってチキン食ったりケーキ食わなくちゃならないって決まりはないって言いたいワケなの」


「そうだな。そんな決まり、もしあったら問題だろう」


「そうそう。だから別にクリスマスだからって人前でやたらイチャつく必要ねーって言ってんだよっ、滅べリア充どもっ!」


笹島は両手の荷物を振り回して周囲を威嚇する。


「うわっ…何やってんだよ。危ないな。それにカップルなんてクリスマスだろうとなかろうと大体いつもあんなもんだろ」


「あぁぁ〜。俺はこの季節が一番嫌いだぁぁ。早く過ぎ去れ。そしてとっとと滅んでしまえ」


「めちゃくちゃだな…」


呆れよりも憐れみの方が大きい。

夕陽は時刻を確認する為にスマホを取り出すと一件のメッセージに気付く。

送信者はみなみだ。

焦ったように開くと、すぐに表情が冷めていく。



「1スタジオ入り8時からリハ。

9時から本番。ソロパートの収録。

 時間厳守

 西口の楽屋で雑誌二社の取材。

 移動中、スケジュール確認。  

 車を乗り換え、14時赤坂のスタジオ入。

 よろしくお願いしますm(_ _)m」



…「仕事の連絡…かよ。これを見て俺は何て返したらいいんだよ。あいつ取り敢えず何か連絡すればいいと思ってないか?」



「そんな夕陽さんよ、今日のこの後のご予定は?」


笹島のイヤらしい視線を避けるように夕陽は早足になる。


「何もないぞ。あぁ、家帰ってちょっと飲むかな。朝、サーモンとタコのマリネ仕込んでおいたからそれ摘みにして」


「…家、付いて行ってイイですか?」


「イくねぇよ」



         ☆☆☆



その後、社に戻り、皆で簡単なパーティーをしてお開きになった。


帰りに会社の方から小さなクリスマスケーキを貰い、自宅マンションに戻ったのは20時だった。


いつも通りに扉を開けようとしたところで夕陽は違和感を覚えた。


「は?……開いてる」


何故か扉が開いていた。

一気に夕陽の警戒心が高まる。

今朝家を出た時は確かに施錠したはずだ。


ゆっくりと扉を押し開ける。


するといきなり目がチカチカした。

それと同時に破裂音。


「うわっ!な…なんだ?」


思わず仰反った。

撃たれたと一瞬焦ったが、どうやら目の前でクラッカーが鳴ったようだ。


「ハッピーメリークリスマスぅ。みーちゃんのカレシさん♡」


「メリクリ!夕陽さん」


「なっ……っ、どうして…えっ?つか、誰?」


見慣れた部屋はピンクやオレンジ等、様々な風船等で飾られ、姫部屋のようになっていた。

だがそれ以上に驚いたのは、二人の少女だ。

二人ともサンタのようなコスチュームを纏っていて、どちらもかなりレベル高い。


一人は永瀬みなみなのだが、もう一人、全体的にピンク色のゆるふわガールがいる。

夕陽は思わず指差して叫ぶ。




「後島エナ!?」



「はいはーい。大正解♡ハジメマシテ。みーちゃんのカレシさん。わぁ、背高いねぇ。イケメンさんだぁ」


「………お…俺の部屋にアイドルが二人…」


「あっ、また過呼吸でちゃうよ。はい、落ち着いて」


あまりの衝撃にまた息の吸い方を忘れそうになり、またみなみに背中を摩られる。

するとエナも手を伸ばしてきたので、夕陽はものすごい速さで飛び退いた。


「だから…どうして……ここへ…?仕事は

?」


「えー、メッセ入れたよ。19時に行くよって」


「は?メッセージなんてお前のスケジュールしか入ってねーぞ」


夕陽はスマホを取り出して確認するが、そのようなメッセージはない。


「えー、あるじゃん。19時に行くよって」


「どこにだよ……」


もう一度スマホを開いて確認してみる。

すると徐々に表情が変わっていく。



 1スタジオ入り8時からリハ。

9時から本番。ソロパートの収録。

 時間厳守。

 西口の楽屋で雑誌二社の取材。

 移動中、スケジュール確認。  

 車を乗り換え、14時赤坂のスタジオ入。

 よろしくお願いしますm(_ _)m」



…19ジ 二 イクヨ


「縦読みか……」


「ブイブイ!」


エナは嬉しそうに飛び跳ねる。


「もう、夕陽さん。勘が鈍いなぁ」




「わかるかっ!」





















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