第30話
「な…何で……どうして知ってるの?」
みなみはきつくパーカーの裾を握りしめ、まるで何か懇願するかのようにこちらを見上げる。
夕陽はそれに目を逸らす事なく続けた。
「ごめん。実はお前が朝、部屋を出た時に俺、こっそりお前の後をつけた」
「えっ…?えっ?どういう事?」
「そうしたらちょうどお前が下で俺と別れるって言っているのを聞いたんだ」
「………あ。そかそか。そういう事か。聞かれてたんだね」
種明かしがされると、みなみは泣きたいような表情になり、そっと唇を噛んだ。
パレードの歓声と花火の爆音がそんな二人に降り注ぐ。
夜空には花火やライトの光すら凌駕する星々が瞬く。
「一等星……」
「ん、どうかしたか?」
不意にみなみが何かに気を取られたかのように夜空を見上げる。
「私ね、あの東京のネオンに負けず夜空に輝く一等星になりたかったんだよ」
「みなみ…」
「あの時、私と話してた子ね、野崎詩織って言うの」
「そうなのか」
知ってる。
そんな言葉が出かかったが夕陽はそれを飲み込んだ。
みなみがようやく何かを伝えようとしているから余計な口は挟まない方がいい。
「うん。中学入ってすぐに出来た友達」
「俺と笹島みたいな感じか?」
笹島とは高校に進学してからの縁だ。
同じクラスになり、最初は何も話す事なく、互いの顔と名前が一致する程度の認識だったが、夏休み前の席替えで仲良くなった。
それ以降、何故か話し合わせたわけでもないのに大学の学部も同じ、就職先も同じという奇跡の悪縁が続いているいる。
「あはは。うーん。夕陽さんと笹島さんのような感じとは少し違うかな」
そう言ってみなみはベンチから立ち上がり、パレードの防護柵に手を伸ばす。
「私ね、昔は今と違ってずっと勉強も出来てスポーツも万能だったんだ。あ、小学生の頃から学級委員も何度かしてた」
「は?マジかよ。お前が?」
夕陽は胡乱げな目を向ける。
彼女の小学生時代のイメージは野山を天真爛漫に駆け抜けるクソガキが浮かぶ。
とても学級委員を任命されるようなエリートには見えない。
「あーっ、何なの、その疑いの目はっ!」
「だってそうだろ。俺の家に来ても漫画雑誌読みながらポテチとコーラなお前しか見てないんだぞ?」
「うぐっ…。だって夕陽さん家、楽なんだもん。……じゃなくて、本当に学級委員だったの。それで中学上がっても、おな小のクラスメイトたちから推薦されて、また学級委員になったの」
「ほぉ……」
みなみは夕陽の視線を避けるように話を続ける。
「それでね、学級委員になってすぐに担任から不登校の子の事を頼まれたの」
「不登校?」
みなみは浅く頷く。
「うん。入学式にも来てなくて一度も顔すら見せない子がいるって言われて、先生もお手上げ状態だから、私に様子を見てきてって…て」
「おいおい、その担任、学校委員を自分の部下か何かと勘違いしてねぇか?」
「だよね。私も何で自分が?…とか、自分に不登校の子を説得とかマジ無理とか思ってたもん。だけど先生がどうしてもって粘るから一回だけ会ってみる事にしたんだ」
「………」
「それで学校帰りに行ってみたの。その子の家に。そうしたらその子の家、すっごい大豪邸で、超がつくくらいのお金持ちだったの」
みなみは両腕で空中に大きな箱型を描いた。
「…で、その子のお母さんと一緒にその子のお部屋の前まで行ったんだけど……」
「だけど?」
「その子のお母さんが部屋の鍵を開けて入った瞬間、……腐ったバナナが飛んできた」
「……ぶっ。何だよそれ」
夕陽は思わず笑った。
「もう。本当にあの時は大変だったんだよ?めっちゃ悪臭のするバナナが私とその子のお母さんに降り注いでさぁ。お上品なお母さんの顔から黒いバナナの汁が滴って……って、ちょっと、夕陽さん笑いすぎ!」
「あはははっ。おかしすぎんだろ。それ、お前の半生、伝記にしてぇ」
夕陽はついに、腹を抱えて大爆笑した。
「私の半生をギャグにするな!」
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