第28話

「おぇぇっ……目が…ぐるぐる回ってる」  


「大丈夫?夕陽さん…」


園内の至る場所に設置されている可愛らしいデザインのベンチの裏でだらしなく夕陽が伸びている。

そんな彼に膝枕をして顔にハンカチを当ててくれるみなみは心配そうな顔をしている。


あれから恐怖のコースター系を3回程周回した夕陽は最後、係員に両脇を支えられながら戻ってきた。

まさに満身創痍。

隠す事の出来ない疲労感が目の下の隈取りとなって現れている。


「ふっ、こんなの…全然大した事ないな」


「いや、こんな状態で言っても説得力ないからね。夕陽さん」


実に冷静なツッコミである。

そしてみなみは夕陽に膝を貸したまま、ゆっくりと周りを見渡した。

楽しげに談笑しながら移動する人々。

それを盛り上げる可愛らしいキャストたち。

その向こうに静かに沈んでいく太陽があった。


「あ、夕陽さん。夕陽が沈んでいくよ」


「俺はもうとっくに…」


そう言いかけた口を人差し指が封じる。


「はいっ、ここ、ムード大切!」


「……はい」


夕陽は小さく笑って、自分もそちらに頭を向けて、ゆっくりと沈んでいく夕陽を眺めた。


「綺麗だよね」


「そだな」


沈む夕陽よりも、夕陽はそれを眺める彼女に見惚れていた。


「あぁ。本当に…マジで綺麗だ」


風に靡く柔らかで淡い金色の髪、長い睫毛に縁取られた大きな瞳、滑らかなラインの頬。ふっくらと桜色に輝く唇。

全てが綺麗で全てのパーツが夕陽の心を甘くドキドキさせる。

この時、夕陽は痛いくらいに彼女を愛しく想っている事を改めて自覚した。

アイドルの永瀬みなみではなく、ただの長瀬巳波を…。


高まった想いに涙が零れそうになる。

忘れたくなかった。

いつまでもこの時間だけ切り取って大事にしまっておきたい。

そんな尊い瞬間だった。


「夕陽さんの生まれた時も、こんな風に綺麗だったのかな」


「さぁな」


「もぅ。可愛くないなぁ」


そう言ってみなみはギュッと夕陽の鼻を摘んだ。


「ぎゃっ?」


その時、夕陽のポケットの中のスマホが震えた。

夕陽スマホは最近機種変したばかりでまだ新しい。

何とか操作してメッセージアプリを立ち上げた。


「笹島か……」


メッセージは笹島からだった。

夕陽はようやく笹島の事を思い出した。


「そういえばあいつ、大丈夫だったのか?」


今思うと相手は相当危険なストーカーだ。

そんな危険な相手に一人で立ち向かわせてしまったのだ。

これは危なかったのではないか。


だがそのメッセージは意外なくらい暢気なものだった。


…「ヤバい。夕陽。俺、恋しちゃったかもしんない(*´Д`*)ハアハア」



「なぬっ?」


「どうしたの、夕陽さん」


思わずスマホを取り落としそうになった夕陽をみなみが心配そうに見つめてきた。


「………わからん。あいつの考えている事は」


とにかく笹島は無事なのだろう。

夕陽は静かにスマホをしまった。


「さて、ナイトパレードまでどうする?」


「え、もう大丈夫なの?」


すると夕陽は勢いよく立ち上がる。


「あぁ。もう大丈夫だ」


「じゃあ、も一回コスモ行っとく?」


みなみが意地悪く微笑む。


「……スミマセン。勘弁してください」


「ふふっ。素直でよろしい。じゃあ、ホラーハウスに行こう!」


みなみが指差す先は西洋の廃墟をイメージしたお化け屋敷だった。

夕陽の額に再び汗が滲み出す。


「……もしかして夕陽さん、ホラー系も苦手なの?」


夕陽は恥ずかしそうにコクリと頷く。


「ハイ」


「………あ〜。うん。遊園地なんて一番行っちゃいけないヤツだ」


これにはもう笑うしかない。

みなみは珍しく疲れたようにため息を吐いた。















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