第21話
永瀬みなみは五人組のアイドルグループ、トロピカルエースのメンバーの一人だ。
それが現在、真鍋夕陽の彼女である。
トロピカルエースの中での人気は残念ながら五人中五位だが夕陽にとっては当然一位だ。
多分バラエティー番組での生意気で挑発的な言動が視聴者の反感を買ったのだろう。
しかしそれはテレビ的な作られたものだと思うだろう、そんな事はなく彼女は素でも生意気で挑発的だった。
…そもそも自分はあんなタイプが好みだったのか?
夕陽はソファでぼんやりテレビを見るふりをしつつ、横で何やら熱心にノートパソコンを操作しているみなみを見た。
…今まで付き合った相手の中に果たして彼女のようなタイプはいたっけ?
考えてみる。
思えば最初に彼女が出来たのは中一の夏だった。
同じクラスの少女だった。
文字通り一夏で別れた。
お互い子供だったし、他にもやりたい事が沢山あって、うまく切り替えが出来なかった。
二人目の時が初体験の相手だった。
中二の終わり頃に付き合った彼女は、翌年転校してしまい、そのまま関係は自然消滅した。
その後高校、大学とそれぞれ彼女が出来たがあまりよく覚えていない。
告白は皆相手の方からだったし、別れも相手の方からだった。
ただ相手に合わせて相手の望むようにした。
それがいけなかったのだろう。
そんな自分のタイプは、何だろう。
優しくて、物静かで、読書好きな人…そんな事を言っていた時期がある。
…ギリ優しいしか当てはまらんぞ。
その「優しい」すら怪しいし。
みなみは寝そべり、両足をバタバタさせながら頬杖をつきパソコンを眺めている。
その横にはコーラとポテチ。
典型的な友達の家に来た中学生である。
これが本当にあのテレビで輝いているアイドルの姿なのだろうか。
…そうなんだよなぁ。
俺は元々ああいう小煩い中高生タイプは苦手なんだよ。
だけど何故かそれが可愛く思える。
恋とは不思議なものだ。
いつの間にか夕陽の視線は優しいものになっていた。
そんな時、今まで黙っていたみなみが突然声をあげる。
「あーっ、栗原柚菜、第一子妊娠だって。早くない?」
「おいおい…」
栗原柚菜は今年の春に一般男性と電撃入籍した女優だ。
どうやらその女優が妊娠したらしい。
みなみは高速で両足をバタつかせる。
「あ〜っ、私も自慢したい〜。彼ピ出来たってつぶやきたい」
「お前はバカか!絶対炎上するぞ」
こういう突拍子もないところも好き…なのだろうか。
「……いや、これは違うだろう」
「ん?何、夕陽さん」
夕陽はみなみの方へ顔を向ける。
「みなみ……」
「何、みなみを甲子園にでも連れてってくれんの?」
「……お前のその体当たりのファンサは誰に向けてのものなんだ?」
「ん?」
「ま、いいよ。みなみ、来月二人でどっか行ってみるか……」
「いいの?」
するとみなみは顔を輝かせた。
みなみの芸能活動再開まで残り二か月。
このまま何事もなく終わればいいが…。
夕陽は窓の外を見やった。
そこに何かを見出そうとするかのように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます