第11話 踏み台
「あっ、沙月さん。僕の部屋にあった踏み台がないんだけど……どこかで見なかった?」
「踏み台ですか? 私は見ていませんが……」
「そっかあ……。あれがないと高い所にあるものが取れないんだよね......」
ある日のこと。智也が自室に置いていた踏み台が無くなったのだという。
彼は低身長のため、高所にあるものを取る際には踏み台を使っていたのだ。
「よろしければ、私がお手伝いしますよ」
「いいの? ありがとう!」
「何だこの天使!?(ご主人様のメイドとして当然のことです)」
「えっ?」
「あっ、いえ。何でもありません」
沙月の申し出に、智也が満面の笑顔でお礼を述べる。その可愛さに、彼女は思わず本音と建前が逆になってしまったようだ。
それから智也に連れられ、彼の部屋にやってきた沙月。
「えっと、あの本なんだけど……僕、背が低いから届かなくて」
「なるほど、かしこまりました。それでは……」
智也が指さす本棚を一瞥すると、沙月は何故か膝をついて四つん這いになる。
「えっ……? 沙月さん? 何を……」
「私がご主人様の踏み台となります。さあ、遠慮なくこの背中をお使いくださいませ」
若干息を荒げ、頬を染めながら自分を踏み台代わりに使ってくれとのたまうその姿はまさに変態。
当然ながら、そんな非道な真似など出来ない智也は首を横に振る。
「いやいや! そんな酷いこと出来ないって!」
「ご主人様。私はずっと貴方様のお役に立てる日を夢見てきたのです。ですから、どうかこの卑しいメイドの背中をそのおみ足で踏んでくださいお願いします!」
「え〜……?」
必死な形相で乞い願う沙月の姿に戸惑わずにはいられない。
そもそも沙月が本を取ってくれれば済む話なのだが、彼女の鬼気迫る表情に気圧されてそれを言い出せない智也であった。
「うー……分かったよ……。でも、痛かったら言ってね?」
「お気遣いありがとうございます。ささ、どうぞこの踏み台をご利用ください」
智也が意を決すると、顔を床に向けた沙月は口角を釣り上げてほくそ笑む。
(計画通り)
そう、全ては彼女が仕組んだことだったのである。
(ふふ……上手くいったわね。ご主人様がいつも使っている踏み台を隠したのは、他ならぬこの私ッ!全てはご主人様に踏んでいただくという願いを叶えるため……!ああ、あの小さくて可愛い足で踏みつけられる感触を想像するだけで……♡)
そんな邪なことを考える沙月の背中に、崇拝する少年の足が乗せられた。靴下を履いているので生足ではないが、彼女に快感を与えるには充分すぎる。
「はあん♡」
「わっ、ごめん! 痛かった?」
「いえ、むしろ気持ちよすぎてはしたない声が出てしまいました……♡」
「そ、そう……」
先程よりも更に呼吸が荒くなった沙月を少し心配しながらも、もう片方の足も乗せて彼女の背中に立った。
「あの、背伸びしても大丈夫?」
「はい♡」
「ほんとにごめんね、すぐ取るからね」
(あっ♡ つま先立ちになったことでご主人様の体重がより強く……♡ )
智也の重みを背中で受け止める沙月の顔は、とろっとろに蕩けきっていた。
「んしょ……もうちょっと……!」
(んほおお♡)
繰り返し上下するかかとに背中をグリグリと踏まれ、思わず喘ぎ声を上げそうになる。おまけにヨダレまで垂らし始め、絶頂一歩手前という有様だ。
「取れた! 沙月さん、ごめんね! すぐ降りるからね!」
「は、はいぃ……♡」
あまりの快感で腰が砕けそうになるのを堪えつつ、智也が背中から降りたのを確認するとよろよろと立ち上がる。
「あの、大丈夫……?」
「ええ、勿論です。むしろご主人様のお役に立てたこと、幸福の極みにございます。これからも踏み台が必要でしたら、この霧島沙月にお命じくださいね♡」
「か、考えとく……」
後日、新しい踏み台を買った智也。
しかし、不思議なことにその踏み台も無くなってしまい、再び沙月から踏み台にして下さいと懇願されるのだった。
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