第10話 騒がしい朝

 朝。智也はいつものように顔に柔らかい物を押し付けられて目を覚ます。

 これは撫子のおっぱいだが、今日は後頭部にも同じ感触がある。振り向いて確かめようにも、前後から抱きしめられているせいで体を動かせない。


「坊っちゃま、おはようございます」


「おはようございます、ご主人様」


「お、おはよう。撫子さんに……沙月さん」


 撫子と沙月による前後からのおっぱいサンドで幸せな起床を迎える智也。しかしながら苦しいのも事実であり、それを察したのかふたりの爆乳メイドは智也を抱きしめる腕を解いた。


「さあ坊っちゃま、お着替えをしましょうね。”私が”お手伝い致します」


「ご主人様、どうぞ”私に”着替えの補助をご命令くださいませ」


 今度は着替えの手伝いをするとのたまう撫子と沙月。その目は肉食動物のようにギラついており、両手で智也の全身を撫で回している。


「ひ、ひとりで着替えられるからぁ......」


 着替えどころでは済まないだろうと察した智也は、か細い声で誘惑を跳ね除けた。

 メイド達と智也の、騒がしい朝の始まりである。


「さあご主人様、わたくしが食べさせて差し上げますわ。お口をおあけになって♡」


「ちょっと千鶴さん、そうやって無理強いをするのはよくありませんよ。ですよね、ご主人様。あっ、でも食べさせて欲しいということでしたら私が……」


 朝食中、メイド達が智也に”あーん”をしてあげようと迫ってくる。最初こそ断った智也だが、彼女らの残念そうな顔を見ると罪悪感に苛まれ、結局食べさせてもらうのであった。


「ご主人様、ほっぺにソースがついてますよ。私が綺麗にして差し上げますね」


「ふえっ!?」


「なっ!?」


 沙月が智也の頬に口づけをすると、舌を出してソースを舐め取る。その行為に、智也と他のメイド達は驚きの声をあげた。

 沙月が口を離すと、智也の頬にはソースの代わりに彼女の唾液がついていた。


「さ、沙月さん……」


「赤面するご主人様……とっても可愛らしいです♡」


 恍惚とした表情で智也を見つめる沙月と、羞恥で彼女から目をそらす智也。そんなふたりを、他のメイド達は唖然とした顔で見ていた。

 特に撫子は、肩を震わせながら絶望している。撫子も智也の頬にキスをする程度なら何度もしたことがあるが、他の女にされたとなると話は違うらしい。


「あ、ああ……坊っちゃまの玉のお肌が……卑しい雌犬の涎で汚れてしまった……! 坊っちゃま、この撫子が消毒いたします!」


 撫子がふたりの間に割り込み、智也の頬に口づけをする。

 智也はと言うと、7人もの美女に囲まれてどうして良いか分からずモジモジすることしか出来なかった。


 ※


 食事を終え、食休みをしている時でもメイド達のアプローチは止まらない。

 ソファに座る智也の腕をおっぱいで挟んだり、頭の上におっぱいを乗せたりとまさにおっぱい天国だった。


「ご主人様、食休みにゲームやろ。ご主人様と一緒に協力プレイしたい」


「ご主人様、ゲームよりも腹ごなしに散歩でもどうだい?歩く度に小刻みに揺れる私のおっぱいを是非とも見て欲しいな……♡」


「うわーんご主人さまー! クソニート共にまた論破されたよー!」


「ふええ……」


 智也からすれば新しいメイド達との生活にまだ慣れていないのに、彼女らはずっと前から一緒に暮らしていたかのように接してくる。

 しかもそれが、女優やアイドルすら目じゃないレベルの美人ばかりなのだ。彼が終始顔を赤らめながらあたふたするのも無理はない。


「貴様ァ!汚い涙と鼻水を垂らしながら坊っちゃまに触るんじゃない!」


 智也に泣きながら抱きついてくる彩音を、撫子が無理やり引き剥がす。その光景を見て、「この人達をまとめるのは大変そうだなあ」と半ば他人事のように考える智也だった。

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