第5話 風邪を引いた変態
「ごほっ……」
ベッドに仰向けになり、軽く咳をする撫子。
数年ぶりに風邪を引いた彼女は38度の熱を出し、休暇をとって自室で療養中だった。
「くそっ……。坊っちゃまのお世話をしなければならないというのに、なんという体たらくだ……」
病気の時も智也のことばかり考えているが、それも当然といえば当然だ。彼女にとって智也こそが全てであり、それ以外のことなど彼の髪の毛一本にも劣るのだから。
その智也の世話が出来ない今の自分に、情けなさと嫌悪感でいっぱいだった。
今日は智也の顔を見ることすら出来ないだろうと絶望していると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
(も、もしや坊っちゃま!?)
「入るよ……?」
ゆっくりと扉が開けられ、愛する少年がひょこっと顔を出す。
「ぼ、坊っちゃま……! 入ってはなりません。 風邪が移ってしまいます……ゴホッ」
普段なら喜んで招き入れるところだが、大切な主人に風邪を移すわけにはいかない。
苦渋の思いで智也に部屋を出るよう促す撫子だが、智也は言うことを聞かず部屋に入ってきた。
相も変わらず自分の写真が部屋一面に貼られている光景に恥ずかしくなりつつも、心配そうに撫子の顔を覗き込んだ。
「大丈夫? 何か欲しいものはある?」
「坊っちゃまの精液が欲しいです」
「えっ」
「すみません間違えました……。私のことは気にせず、自室にお戻りください。万が一、私のせいで坊っちゃまが風邪を引いてしまったらと思うと……」
たった今発せられた爆弾発言をなかったことにし、心苦しくも智也の看病を断る撫子。
智也は両手をモジモジと動かしながら、上目遣いで撫子を見つめた。
「あ、あのね。僕……いつも撫子さんにお世話になってるから、こんな時くらいは僕が撫子さんを助けてあげたくて。だから、風邪が移るとか気にしなくていいから。今日は僕に甘えて欲しいな……」
「坊っちゃま……」
照れくさそうにそう言った智也に萌え殺されそうになりながら、撫子は心の中で感嘆の声をあげる。
(なんて……なんてお優しいのだ、坊っちゃまは……! いや、坊っちゃまがお優しいことなど元から知っていたが、私のことをここまで気にかけてくださるなんて! いかん、感激のあまり泣きそうになってきた)
自分が愛する主人に大切に思われていることを実感し、感極まる撫子。ここまで言われて彼の親切心を無碍にするのはかえって失礼だろうという結論に至った。
「……分かりました。坊っちゃまのお心遣いに甘えさせていただきます」
「うん! 今日は僕が撫子さんのメイドになってあげるからね!」
(!?)
智也の衝撃発言に撫子が目を見開く。メイド服を着て自分に奉仕する彼の姿を想像し、鼻血が吹き出しそうになるのを必死で抑えた。
「あ、僕の場合は男だから執事かな?」
「……坊っちゃま、早速ですがお願いしてもよろしいでしょうか」
「うん、いいよ。僕に出来ることなら何でも言って」
「何でも」というワードを聞き逃さなかった撫子は、したり顔で望みを口にする。
「メイド服を着て私にお粥を食べさせていただけませんか?」
「えっ」
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