第6話 小さなメイドさん
「うぅ……何で僕メイド服着てお粥作ってるんだろう……」
あれから智也はメイド服に着替え、撫子のためにお粥を作っていた。
何故彼の体にピッタリなサイズのメイド服があったのか。
その理由は単純で、撫子がいつか智也に着てもらおうとあらかじめ作っておいたからだ。
「とりあえず出来たけど……味は大丈夫かな」
スプーンでひと口分掬い、ふーふーと冷ましてから口の中へ運ぶ。
「うん、大丈夫そう。ちょっと薄いけど、病人にはこれくらいがちょうどいいよね」
お粥が入った土鍋をワゴンに乗せ、再び撫子の部屋に入る。
すると、智也の視界に驚くべき光景が映った。
「お待たせ……って、何で正座してるの!?」
「坊っちゃまに食べさせていただくのですから当然です」
撫子は正座しながら待っていたのだ。
彼女は智也のメイド服姿を見たら確実に大量出血で瀕死になると予測し、彼がお粥を作っている間に性欲を発散させたのだ。
その結果、智也のメイド服姿を間近で見ても鼻血を出すことはなく、清らかな心でいることが出来た。
(坊っちゃまのメイド服姿可愛すぎぃぃぃぃ!! さっきしこたまシたのにまたムラムラしてきた……♡ まったく、それもこれも坊っちゃまが可愛すぎるのがいけないんですからねっ! 風邪が治ったらおっぱいで窒息の刑に処さなきゃ(使命感))
普段なら一も二もなく智也に飛びつき、彼を撫でくりまわしながら頬ずりして胸に抱くところだっただろうが、見事に自分を抑えている。
自分の可愛さを自覚していない智也は、ひとつひとつの仕草で撫子を萌えさせているとは思いもしなかった。
「そんな心構えはいらないから! ほら、もっと楽にして! ね?」
「世話を焼く坊っちゃまも可愛いですね……♡ この撫子、新たな性癖の扉が開きそうです」
智也にバブみを感じるという今までにない感覚。
この瞬間、撫子の中にいずれ赤ちゃんプレイもしてみたいという新たな欲望が生まれた。
赤ちゃん役と母親役の両方で。
「もーっ! ほら、食べさせてあげるからちゃんと座って!」
「ちょっと怒ってる坊っちゃまも可愛いです♡」
「うー……今日の撫子さん、何か変だよぉ……」
暴走気味の撫子に困惑しつつも、彼女にお粥を食べさせるためにレンゲを手に取る智也。
「ふー、ふー……ほら、あーんして」
普段から超絶可愛い主人が、自分のためにメイド服を着てお粥を食べさせてくれる。
そんな最高のシチュエーションを脳内HDに焼き付けながら、撫子は差し出されたレンゲに口を近づけていく。
「美味しいです……」
「ほんと?」
「はい。さすがは坊っちゃまです」
(薄めの味付け……恐らく私が食べやすいように気を遣ってくださったのだろう。量もやや少なめで、楽に食べきれそうだ。まあ、坊っちゃまが作ってくださったものならどれだけ多かろうと食べきってみせるがな)
自分が食べやすいように作ってくれた智也の気遣いに感謝しながらお粥を食していく。
10分ほどで食べ終わると、智也は空になった土鍋をワゴンに乗せる。
「それじゃあ、僕は後片付けしてくるから。もし何かして欲しいことがあったらいつでも呼んでいいからね」
「坊っちゃま」
「ん? なあに?」
「私は、貴方様のような素敵な方にお仕えすることが出来て……本当に幸せ者です」
「え、ちょっ……! どうしたのいきなり」
突然の告白に戸惑う智也であったが、撫子の感謝のこもった笑顔にドキッとする。
本来なら、主人が風邪を引いたメイドを看病するなど有り得ないことなのだ。にも関わらず、智也は当然のように自分を心配してお粥まで作ってくれた。その事実に、改めて感謝したのである。
「──僕も、撫子さんみたいな人が側にいてくれて……う、嬉しい、です」
そう言うや否や、赤面した智也は逃げるように部屋を出ていった。
「~っ!!! 」
智也が自分に言ってくれた言葉。
それが何よりも嬉しかった撫子は、枕に顔を埋めて足をジタバタさせる。
ちなみにその後数分間、撫子の熱は39度に上がっていた。
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