第19話 シオンと武器屋

俺はカサンドラを常連の武器屋に案内をする、この街には何軒か店はあるが、個人的にここが一番品ぞろえがいいのと、初心者の時からお世話になっているのでお勧めなのだ。品定めをするかのように剣をみていたカサンドラがすこし驚いたように言った。




「へえー中々いい店ね。武器の手入れもしっかりされてるし」

「ここが俺がいつも使っている武器屋だ。この街では結構品ぞろえがいい方だよ。店長も口は悪いが、腕は確かだしな」

「はっ、生意気を言うじゃねえかよ。パーティーから外されたっていうから心配してやってたって言うのによ……」

「おっさん聞いてたのか? まあ、色々あったんだよ。今は彼女と組んでいるんだ」



 俺の声を聞きつけたのか、店の奥からガタイの大きい男性が出てきた。元冒険者というだけあって迫力がある。こんなんだから新人冒険者が中々来ないんだよなぁ……




「はじめまして、カサンドラと言います。シオンとパーティーを組ませてもらっています。といってもまだ組んだばかりですが……」

「嬢ちゃんが新しいパートナーか……まあ、冒険者をやっていると色々とあるよな、シオン手を出せ。これをやるよ」



 そういうとおっさんは壁に掛けてあった高そうな剣を渡してきた。何だろうと思い彼の顔を見ると抜けと示す。



「なんだこれ……軽い、しかも刀身むっちゃ綺麗なんだけど」

「シオン……それミスリルでできた剣よ、そんな高価なものを注文してたの?」

「はぁ!? ミスリル? 悪いがこんなの買えないぞ」



 俺は思わず素っ頓狂な悲鳴をあげて、おっさんをみる。ミスリルとは金属の一種でとても軽く、強い。そして何よりも魔術をよく通すのだ。武器としては鉄や鋼よりはるかに強力だがその分高価である。Bランクの冒険者でも上位の一部の人間が持っているくらいである。ちなみにイアソンの剣はミスリル製でここで買った。



「だれも売るなんて言ってねえだろ、お前には鉱山までの護衛を頼んだ時に良い鉱石を教えてもらったり、色々世話になってるからな。新しいパーティー結成のお祝いだ。本当はAランクになったらやろうと思ってたんだけどな……」



 そういうとおっさんは少し、寂しそうな顔をした。この人は俺以外にもイアソンや、アス、メディアとも仲が良かったからな……でも仕方ない事なのだ。俺は……俺たちはもう袂を分かったのだから。俺は少し寂しい思いをしながらも剣をありがたくいただくことにした。


 恐ろしいほど軽い剣は不思議と俺の手に吸い付くようにぴったりだった。何度も武器の修理を頼んでいた俺の癖なども知り尽くしている親父さんの業だろう。ってことはこれ、俺のために作ったのか?



「おっさん、ありがとう……大事にするよ」

「礼はいい。お前伸び悩んでたろ? でも、これで武器をいいわけにはできねえからな。さっさと有名になってうちを宣伝しろよな。それより、カサンドラさんだっけか……」



 おっさんは、さっきまでの仏頂面から一転して真顔になってカサンドラをみる。その目は何か観察しているようで……その視線に何かを感じたのかカサンドラは眉をひそめた。



「なんでしょうか? もしかして私の髪の色でしょうか……確かに私の髪は……」

「ああ? 髪なんてどうでもいいだろ。シオンは自分に自信がないヘタレだがわるいやつじゃない。あんた相当腕が立つだろう? だから、こいつを支えてやってほしい。こいつはもっと自分に自信をもてばできるやつなんだ……だから……」

「お前はおれの親父か!! やめろよ、おっさん恥ずかしいだろうが!!」

「うるせえ、お前の事だからどうせ俺なんか……とかいってヘタレて迷惑をかけるんだろう。冒険者は舐められたら終わりなんだぞ」

「あんたのその言葉でカサンドラに舐められるだろ!! まあ、自信がないのは否定しないけど……」


 店の前でギャーギャーと騒ぐ俺たちを通行人たちがみて笑いながら通り過ぎる、つられてか、俺たちのやりとりを聞いてカサンドラが笑みを浮かべる。



「ふふ、武器屋のおじさん、安心してください。私は彼との付き合いは短いです。でも良い人だってことも、実はすごいやつだってことも、もう、わかってますから安心してください」

「なんだよ、それ」

「そのままの意味よ、照れないの。ちょっと店内をみてくるわね」



 なにやら褒められて俺は自分の顔が赤くなるのを自覚した。おっさんはカサンドラに聞こえないように俺に囁く。



「いい女じゃねえか。絶対逃すなよ」

「うっせえ!! そういう関係じゃねーよ」



 真顔でこのおっさんはなんてことを言うんだ。それにしても、どうしてみんな俺を甘やかそうとするかな。調子に乗っちゃうぞ。俺はカサンドラが奥に行ったのを見届けてから武器屋に来たもう一つの目的を話す。


「なあ、おっさん、こんなもんない?」

「はぁー? まあ、うちにはアクセサリーもあるが……お前も色気づいたな。うまくやれよ」

「うっせえな、俺はあくまでパーティーの戦力強化をだな……」

「あーはいはい。わかったわかった、そういうことにしといてやるよ。童貞卒業できたらいえよ。酒でもおごってやるからよ」

「ど、どうていちゃうわ!!」



 俺は少し笑みを浮かべているおっさんからカサンドラにばれないよう密かにアクセサリーを購入した。そして、カサンドラも気に入った短剣があったようで購入して俺たちはお店を後にした。彼女は俺からのプレゼントを喜んでくれるだろうか?


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