第18話 シオンと街の人々

カサンドラとの待ち合わせ場所で俺は少しそわそわしながら待っていた。魔術で水をだして臨時の鏡をつくりだして、身だしなみを確認する。ああ、でも女性と二人ってなんかデートみたいでいいよな。などとはおもっては失礼だろう。彼女は俺の事を相棒として信用してくれているのだから。



「ごめんなさい、まったかしら? その……この格好へんじゃないかしら? 前の街で流行っていたのよね」



 俺が振り向くとそこには赤髪の天使がいた。普段の冒険者姿とは違い可愛らしいレースをあしらったワンピースを着たカサンドラが立っていた。リラックスしているのか表情もやわらかく、ぱっと見は冒険者にはみえない美少女がそこにはいた。つまり一言で、表すと……



「最高に似合ってるよ」

「ふふ、ありがとう、お世辞でも嬉しいわ」



 いや、お世辞なんかじゃないんだけどねと思ったが、わざわざ言うのも恥ずかしいので、俺は彼女と並んで歩く。少し歩いてから、彼女は少し緊張したように聞いてきた。



「シオンは今みたいに女性とよく二人で買い物とかするの?」

「いや、全然だよ。そういう事言われるとなんか変な風に緊張するだろ……」

「ごめんなさい。でも、私と一緒ね。異性どころか人と歩くのも久しぶりよ。だから、今日はエスコートしてくれるの楽しみにしてるわよ」

「ハードルあげないでくれない? 俺そんなにデートスキルないよ」

「大丈夫よ、私結構チョロいから。少しの事で喜ぶわよ」

「あー確かに……」

「そこはそんなことないって言いなさいよ」



 そういうと彼女は不機嫌そうに唇を尖らせた。ボッチだったからか、確かにチョロそうだよな。酒場でも一緒に飲むだけで嬉しそうだったし……でもさ、それだけ俺には心を開いてくれているってことなのだろう。少なくとも馬車で会った彼女はまるでとがった刃のようだったから……そう思うと俺も嬉しくなった。そして彼女を楽しませようと思う。そして俺の住んでいる街をすきになってもらおうと思う。




 何年も拠点にしている街を歩いているといろんな知り合いができるものだ。道を歩いていると街で食堂を開いているジャックに会った。彼とは食材の納品の依頼を受けたのがきっかけで仲良くなったのだ。それ以来ちょいちょいお店に遊びに行ったり酒場に飲みに行く仲だ。



「おーい、シオン。今度鶏の話をきいてくれ、最近卵の産みがわるいんだよ」

「いいぜ、その代わりランチをごちそうしてくれよ」

「おおいいぜ、よかったら、そっちの美人さんも連れてきていいぞ。シオンもやるじゃないか」

「美人……私がですか?」

「あんた以外いないだろう? あんたシオンの新しい仲間だろ。うちは食堂をやってるんだ。今度シオンにつれてきてもらってくれよ。サービスするからさ。そのかわりこいつをよろしくな。卑屈なところはあるがいいやつだからさ」

「お前は俺の兄貴か!! 恥ずかしいからやめろよ。カサンドラも困ってるだろ」

「ふふふ、シオンはこの人と仲良しなのね」

「いや、実は今初めて会ったんだ。あなた誰ですか? なれなれしくしないでくれます?」

「シオンてめえふざけんなよ。お前の恥ずかしいポエムをこの子に話すぞ」

「お前あれを言ったらマジでぶっ倒すからな」



 飼っている犬の世話を時々するメアリーさんに会った。彼女とは犬が苦しそうにしているところを見かけ、犬に話を聞いて、助けたことから仲良くなったのだ。



「あら、シオンじゃない、かわいい子ね、デートかしら?」

「デート……いや……その……シオンとは相棒で……」

「ちがうって!! 仲間だよ。この街には最近来たばかりだから案内してるんだよ」

「あらあらそうなの。綺麗な髪ねぇ、よかったらこれを食べてくださいな。。ちょうど孫娘のために作ったんだけど、作りすぎちゃったのよ」

「え、クッキーですか……ありがとうございます。でもこの髪色へんじゃないですか?」

「なにをいってるの? 綺麗な赤色じゃないの。べっぴんさんよね。ねえ、シオン」

「なんで俺に振るかなぁ。ああ、綺麗だよ。まるで炎みたいでさ」

「あらあら、きれいなのは髪だけかしら?」

「ああ、髪も顔も服装もみんな綺麗だよ。彫刻かなって思うくらいだよ!!」

「馬鹿……こんなところで何をいってるのよ」

「ふふ、二人とも顔を真っ赤にして初々しいねえ」



 そのあともいろんな人と俺は話す。どうやら俺が見慣れない女性といるのが珍しいらしい。いや、それだけじゃないな。俺がパーティーを追放されたことを知っているのだろう。いつもより、みんなが優しい。その思いやりがありがたかった。いろんな人と話をしていると、カサンドラがびっくりしたようにいった



「シオンは顔が広いわね。歩いているだけで何人もの知り合いにあるんですもの」

「俺のギフトは戦闘よりも日常生活で役に立つからな。俺にできることで助けられる人や動物がいれば助けるだろ? そうしたら知り合いがどんどん増えて行ったんだよ」

「ふふ、あなたっていいやつよね。ほらもらったクッキーを一緒に食べましょう」



 そういうと彼女は口笛を吹きながら上機嫌にクッキーに口をつけた。そして袋から一枚のクッキーをつまんで俺の口の前に持ってきた。え、何? 食べろってことなのかな。俺はそのまま、彼女の手にあるクッキーに口をつけた。



「え!?」

「なんだよ、食べちゃいけなかったのか?」

「いや、その……手に取るものだと思ってたから……」

「あ……え……」



 そりゃあ、そうだよね。俺何やってるんだろう。周囲をみるとなんか通行人の人が微笑ましいものを見るような目線を向けてくる。確かに恋人みたいだったよな、くっそ恥ずかしいんだけど。俺が気まずそうにカサンドラをみると彼女は不思議そうな顔をしながら言った



「犬に餌をあげるのってこんな気分なのかしらね……」

「台無しー!! 俺のドキドキを返してくれる!? 早く武器屋にいくぞ!!」



 俺は恥ずかしさをごまかすように早歩きをした。なんか意識してしまった俺が馬鹿みたいじゃん。



「ちょっと待ちなさいよ。私だってどきどきしたにきまってるじゃない……」



 だから俺は彼女がボソッと何かをつぶやいたのを聞くことはできなかった。


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