第20話 シオンとカサンドラ

一通りのアイテムを買い終えた俺たちはギルドの酒場とは違うちょっといいレストランへと向かうことにした。

 このお店は高台にあるため街が一望できるのだ。いつか彼女ができたらデートに使おうとしていたところである。あいにくその機会はなかったが、今役に立ったからよしとしよう。



「カサンドラこの街はどうだった、好きになれそうか?」

「そうね……シオンがこの街を好きだっていう事と、この街の人もあなたのことを好きって言うのはわかったわ。あなたと一緒だったおかげでサービスもしてもらったしね」



 そういうと彼女は武器屋で購入した短剣を掲げながら本当に嬉しそうに微笑んだ。彼女が持つには少し大きいサイズだが何か考えがあるのだろう。よかった。本当に楽しんでくれたようだ。彼女の笑顔を見て俺はホッと安心する。




「だからって私もあなたの事を好きってわけじゃないんだからね? か、勘違いしないでよね」

「え、ごめん、いきなり何? レストランのご飯合わなかった?」

「え……シオンってこういうのが好きって、武器屋の人が言ってたから、喜ぶかなって今日のお礼にって言ってみたんだけど……なんか違ったかしら」



 そういうと彼女は恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして顔をうつむいた。いやぁ、確かに昔に武器屋のおっさんに、好きな異性のこと聞かれた時にそんなこといったけど……カサンドラにいうなよ、くっそはずかしいじゃん。でも可愛い……なれないツンとそのあとの恥ずかしがっている顔が、綺麗系の顔とあわさってやばい。



「いや、そんなことしないでも、カサンドラは魅力的だよ。でもツンデレっていいよね」

「そ、そう、ありがとう……」



 何言ってんだ、俺。カサンドラも困ってるじゃん。変な雰囲気になってしまった。なんとか話を変えよう。俺がてんぱっていると彼女が口を開いた。



「この街はいい街よね、みんな暖かいし、何よりもあなたと一緒にいたからっていうのもあるけれど、私の髪をみても、誰も変なことを言ったり、変な目でみてこなかったもの」



 彼女は俺のおかげといってくれるが、この街は商業が盛んなため人の出入りが多いので変わった人間が多いというのと、ここがはるか昔『魔王』と呼ばれた魔族の冒険者に救われたというのも関係しているだろう。ようは魔族や、外見が違う存在に対して拒否感が少ないのだ。

 でも、そういって自分の髪の毛を撫でながらつぶやく彼女は本当に嬉しそうで……これまでどれだけ重い人生をおくってきたのだろうか、俺にはわからないけれど、これから彼女のその言葉の重みを少しでも軽くしたいなと思う。相棒として彼女を支えたいなって思う。



「ああ……いい街だよ。武器屋のおっちゃんは口は悪いが面倒見はいい。アンジェリーナさんは何にもわからない俺に色々教えてくれた。そりゃあ、襲ってきた冒険者のようにクソな奴だっているけど、俺はこの街も住人も好きなんだ。だからできればカサンドラにもこの街を好きになってもらいたいなって思う」

「私もこの街が好きになれそうよ。私は予言するわ。この街であなたと一緒に楽しそうに冒険者をしているわ」

「へぇー、それはギフトか? なら真実になるんだろうな」



 彼女の冗談に俺の冗談に返すと彼女は小悪魔のような笑みを浮かべて行った。



「ええ、あなたが私もこの街を好きにさせてくれる未来がみえたわ。期待してるからね、相棒」



 これは責任重大だなと思う。でも、彼女が前向きになってきてくれている事がわかる。だからというわけではないが、俺は動く事にした。



「なあ、カサンドラ……パーティー結成記念に買ったんだ。良かったら受け取ってくれないか? その……君の紅い髪によく似合うと思ってさ……」

「え……これって……」

「特殊な魔術が付与されているらしくてな、身に着けていると少しだけど体力が回復するらしい。カサンドラには前衛として頑張ってもらうことになるからあったほうがいいなって思って」



 彼女は俺が渡した紙袋を目を見開いた。そして彼女は俺が渡したルビーで装飾された髪飾りをみて、嬉しそうに微笑むと、そのまま、自分の頭につけた。その姿はとてもきれいで、俺は天使かな? などと思ってしまったのだ。



「ありがとう、シオン。私達って気が合うわね。実は私もあなたに渡そうと思っていたのよ……プレゼントってしたことないから変かもだけど、受け取ってくれるかしら」

「これは……さっきの短剣か」

「ええ、少しだけど、ミスリルが混じっているから普通よりは魔術を通しやすいわ。狭いところなら剣より使いやすいわよ」

「ありがとう、大切にするよ」



 武器屋のおっさんと、カサンドラのおかげでだいぶ武器が強化されたな。それになによりも俺のために選んでくれたというのが嬉しい。俺はミスリルの剣と彼女のくれた短剣にもっと強くなることを誓うのだった。



「それで、シオンのお勧め料理を教えてくれるかしら」

「ああ、いいよ。ここは肉料理が結構いけるんだよ」



 そうして俺たちは食事を始めるのであった。ここの料理のレベルが高いって言うのもあるだろうけど、彼女と食べたご飯はこれまでで一番幸せな味がした。

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