第15話 イアソン
「それにしてもびっくりだよ、おまえの事だからすぐに、どうしてももう一度仲間にしてくれって泣きついてくると思ったのにさ、うまくやったもんだなぁ」
「イアソン……追放したのはお前らだろう。今更そんなことするかよ……」
イアソンに挑発される俺の前にカサンドラが割り込んで、イアソンを睨みつけながら一言。
「何を言っているの? 彼には私の方から仲間になってほしいってお願いしたのよ、それに彼の凄さを理解できないあなたに彼はもったいないわ。馬鹿に魔剣って言う言葉を知っているかしら?」
「なんだお前は!? 俺は今シオンとはなしてるんだけど!!」
そういってカサンドラとイアソンはにらみ合う。二人は一触即発という感じだ。なんとか穏便に済ませないと。
「二人とも落ち着いて……」
「シオン、あなたが馬鹿にされたのよ!!」
「はっ、女にかばわれてずいぶんと良いご身分なぁ、シオン」
「そうね、かばう価値のないあなたよりもシオンの方が、よっぽどいい身分でしょうね」
「なんだと女ぁぁぁぁ!! 俺のギフトは『英雄』だぞ!! Bランクのパーティー『アルゴノーツ』リーダーなんだぞ。俺に価値がないはずがないだろう!!」
激高するイアソンに対して、カサンドラが挑発するように笑みを浮かべる。
「英雄ね、もちろん知ってるわよ、世界を救うような活躍をする人間もいるけれど、その多くはプレッシャーに押しつぶされて、無茶をして早死にするらしいわね。あなたは……後者でしょうね」
「クソ女ぁぁぁぁぁ、ぶっ殺されたいのか!?」
「イアソン様落ち着いてください、ここはギルドですよ!! それにあの赤い髪に腰の武器……彼女は『災厄のカサンドラ』です。Bランクのソロの冒険者です!!」
「だから何だって言うんだ!! 俺があんな女に負けると思っているのか、メディア!! はっ、名前を聞いたことがあるぞ、仲間殺しのカサンドラだろう。シオンもランクを落としたくなくて必死だなぁぁ、こんないわくつきの女のとパーティーを組むなんてさ」
「違う……私は……」
イアソンの言葉にカサンドラの顔が苦しみに歪む。ってかさ、こいつ今何て言った? 俺の相棒になんて言った!?
「謝れ、俺を馬鹿にするのはいい!! でもカサンドラを侮辱するのは許せない!! 謝れよ!!」
「何をしやがる!! はっ、本当のことを言って何が悪いんだよ。こいつが仲間殺しって呼ばれているのは事実だろうが!!」
「カサンドラは仲間殺しなんかじゃない。現に俺は彼女とクエストに行って帰ってきたよ」
「シオン……ありがとう……」
俺はイアソンの胸元につかみかかるが、すぐに弾かれる。不快そうに顔をゆがめるイアソンを俺は睨み返す。この時点で俺はもう穏便に済ます気はなくなっていた。だってさ、大事な相棒が侮辱されたんだ許せるわけないだろう。
「シオンさん、なんとかしてくださいよう、Bランクの冒険者同士が本気で喧嘩なんかしたらシャレになりませんよ」
「ええ、大丈夫ですよ、俺に名案があります」
突然の事態に混乱している受付嬢が俺にすがるような目で言ってきた。ごめん、でも俺はもう穏便に済ませる気はないんだ。
「悪いけど私は黙るつもりはないわよ」
「はっ、口だけは達者だな、今なら俺の足を舐めれば許してやってもいいぞ」
「口が達者なのはあなたでしょう? 剣の腕もそれくらい達者だったらいいのにね」
再び睨みあう二人。俺はその二人の間にまるで仲裁をするように割って入って周りの人間全員に聞こえるように言った。
「これから二人が模擬戦を始める!! Bランクの前衛同士の戦いだ!! みんなも勉強になると思う!!」
「うおおおおおお!!!!!」
俺の言葉に周りで騒ぎを見物していた冒険者たちが騒ぎ出す。模擬戦とは私闘が禁止されている冒険者同士で、訓練と称して戦うのだ。もちろん、相手を殺してはいけないし、一生残るような傷は与えてはいけない。そして負けた方は勝った方に謝るという暗黙のルールがある。
口では納得できない場合に冒険者同士は納得するための方法である。幸いここは冒険者ギルドである。傷を治療できるやつはいくらでもいる。
「赤い髪のねーちゃん、やっちまえ!! イアソンのやつは、生意気で気に喰わなかったんだ!!」
「イアソン、この街の冒険者としてよそ者に負けるんじゃねーぞ!!」
「シオンさぁぁぁぁん!!」
恨めしそうな目で俺をみる受付嬢に俺は頭を下げる。冒険者たちは騒ぎ始め、どちらが勝つかの賭けまで始まる。これでもう俺たちもイアソンも逃げることはできなくなった。
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