第14話 VSトロル

俺たちは鳥の案内に従って、森を進む。トロルはCランクの冒険者の最後の壁ともいわれている。オークをはるかに凌駕する怪力と、圧倒的な再生力は生半可な攻撃は意味をなさない。アルゴノーツの時はメディアの圧倒的な魔力で瞬殺だったが、今回はそうはいかない。

 敵の気配を感じた俺たちは足を止めて身をひそめる。そして鳥に情報を聞く。近くにいるのは三体だ。俺たちは強力な魔法は使えない。カサンドラが一体倒してる間に、なんとか時間を稼ぐ必要があるだろう。



「さて、どうするか、カサンドラはトロルを倒すのに何分かかる?」

「そうね……5秒かしら?」

「は? トロルだぞ、再生力がすごくて生半可な傷だとすぐなおるんだぞ」



 俺は思わずききかえす。彼女の持っているのは剣である。切れ味がすごいとはいえ限度があるだろう。トロルを倒すセオリーとしては前衛職が囮になって、後衛が強力な魔術を放つのだ。後衛がいない場合は、前衛職が再生の追いつかないくらい傷を与えるのだ。



「見てなさい、ギフトと同時使用はできないのが欠点だけれど、私にはもう一つの武器があるのよ。『炎剣(フランベルジュ)』開放」



 彼女の言葉と共に剣が炎に包まれる。そして彼女は燃え盛る剣でトロルに切りかかる。スパンと腕を切ると同時にトロルの傷口が焼かれ、再生力が機能しなくなった。そして驚愕しているトロルの首をはねて一匹目が死んだ。ああ、そういえばオークとの時も使っていたな……

 てかさ、本当に5秒くらいなんだけど強すぎない? 俺いらなくない? また追放されない? 驚愕している俺をよそに残りのトロルは彼女へ、もう一匹は俺の方へと向かってくる。



「そっちはまかせたわよ、シオン。あなたなら私と同じことができるわ。剣に魔術を纏わせるのよ」



 そういって彼女はもう一匹のトロルと戦い始める、まじかよ……考えろ、どうするか考えろ。以前は俺はトロル相手に何もできなかった。時間をかせぐだけで、俺はメディアの圧倒的な魔術で灰になっていくトロルをみることしかできなかった。でもカサンドラは言った。俺ならできると。



「炎よ」



 俺は見よう見まねで剣に炎をまとわせる。アルゴノーツにいた時に土下座をしてメディアに魔術を習ったものだ。結局、俺のスキルはいくらがんばっても上級にはならなかったけれど、ひたすら練習をしたからか、制御力には自信があるのだ。カサンドラより多少はいびつだが剣が炎にまとわりついた。



『人間が!! せめて雑魚の方は殺してやる』

「はは、おまえのかーちゃんでべそ」



 言葉が通じたことに一瞬動揺したトロルに切りかかる。腕を、顔を、体を、切りさく、カサンドラのように一刀両断とはいかなかったけれど、炎をまとった剣はトロルの再生力を無力化していた。そして俺は何分か、かかったがようやく奴ののどを貫き絶命させた。



「やったわね、まさかいきなりできるとは思わなかったわ。すごいじゃない」

「ちょっと待って、お前さっき信じてるとか、俺ならできるとか言ってなかったか?」

「ええ、中級魔術をもっているあなたなら一週間くらいでできるって思っていたのよ……でも、いきなり制御するなんて……あなたはがんばっていたのね……すごいわシオン」



 そういって赤い髪を揺らしながら俺に笑いかける彼女は俺が成功したことをまるで、自分の事のようによろこんでいてくれたり、俺が今までがんばっていたことを認めてくれて、それがなんかすごい嬉しかったんだ。

 おそらく、彼女は昨晩飲んだ時に俺がトロルに傷を負わせられなかったという話を聞いて色々考えてくれていたのだろう。ご丁寧に戦い方までヒントをくれて……ありがとう、カサンドラ……俺はまだやれるみたいだ。俺はBクラスとして恥じない力があったようだ。みんなに置いて行かれないようにとがんばった努力は無駄じゃなかったようだ。




「そういえばカサンドラはどんな魔族とのハーフなんだ? やっぱり炎と関係あるのか?」

「実は私もみたことないんだけど、なんか全身が炎に包まれた魔族だったらしいわよ。だからか、私も火はうけてもダメージはないし、火だけは魔術も使えるのよね」



 なるほど、オークとの戦闘でも彼女も爆発をうけていたはずなのにダメージがなかったのはそういうことだったのか。それはともかく、俺は新たに浮かんだ疑問を口にする。




「でもさ、それってどうやって子供をつくったんだ? やけどしない?」

「うっさいわね、知らないわよ!! 両親のそんな姿想像したくなんてないでしょ!! そんなことより早く帰るわよ」



 トロルの耳を切りながら、聞くと、顔を真っ赤にしたカサンドラに怒られてしまった。だから火の耐性EXなんだなと俺は納得をした。まあ、いいや、これでミッションは終わりである。





「トロル討伐おめでとうございます。これでお二人はBランクパーティーとして認められました。これからも頑張ってくださいね」

「やったわね、シオン」

「ありがとうございます、そういえばアンジェリーナさんは?」



 トロル討伐にの報告に来た俺はいつもの席にアンジェリーナさんがいないことに気づいた。俺の言葉になぜか、受付嬢は嬉しそうににやりと笑った。



「ああ、彼女は今とあるクエストの依頼の打ち合わせ中なんです。彼女のお気に入りの冒険者さんからの情報が今回のクエストのキーになったので、説明を任されているんですよ。シオンさんが心配してたって言っておきますね、絶対喜びますよ」

「いや、別にそういうわけじゃないんですか……」



 なんか俺がアンジェリーナさんをきにしてるみたいじゃん、早く誤解を解きたいだけなんだけどな。俺がどう説明をしようと悩んでいると後ろから声をかけられた。



「あれー、シオンじゃないか、お前がBクラスなんてギルドも人手不足何だなぁ」



 その声は今はまだ聞きたくない声だった。そして前まではしょっちゅう聞いていた声だった。俺は振り返って答える。


「久しぶりだな、イアソン……それにメディアもか」



 そこには予想どおりの二人がいた。意地の悪い笑みを浮かべてるイアソンと、一歩下がって従者のように付き従っているメディアである。彼女はにこりともしないで俺に対して頭を下げた。カサンドラが空気を呼んでか、俺とイアソンの間に立ちはだかるかのように割ってくれたのは少し助かった。




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