あかぐろ

AVID4DIVA

声劇台本 あかぐろ 男2女2


【配役】

男:男

女:女

オーナー:男

ディーラー:女


・問題のある表現が含まれます。運用に際してはご配慮ください。

・当台本を用いることによって生じた不利益には一切関与いたしません。


【本文】


女モノローグ:雑居ビルの一室に

小ぶりなルーレット台を挟んで対峙する

女ディーラーと男ひとり。

彼の手元には高額チップが堆く積まれていた。


(男の前にチップの山が押し出される)


ディーラー:黒の24。配当をどうぞ。


(男の斜め後ろからオーナーが腰を折るようにして顔を近づける)


オーナー:見事な一人勝ちですね。


男:たまたまだよ。


オーナー:昨日も、一昨日も、先週も。ほかの客が興覚めして最後の一人になるまで勝ち続ける。


男:何だよ、人が悪いな。


オーナー:そうではなく。


(男、椅子の背にもたれかかり、露骨に舌打ちする)


男:帰る。清算してくれ。


(立ち上がり踵を返す男を制して)


オーナー:一杯ご馳走させてください。


男:毒入りワインなら結構だ。


オーナー:私、運が強い人間が好きなんですよ。


(オーナー、傍を通った黒服に向けて手を挙げる)


(男、ポケットからタバコのパッケージを取り出し一本銜える)


男:四回に一回当たれば勝つ。そういうゲームだ。


(オーナー、黒服からカクテルグラスを二つ受け取り、一つを男に差し出す)


オーナー:ロシアンルーレットなら六回に一回ですね。


男:毒入りワインなら二回に一回か。


(男、銜えた煙草に火をつけ、ゆっくりと深く吸い込み煙をオーナーの顔に吹きかける)


オーナー:オーナーのタカナシと申します。お見知りおきを。


(男、吸いさしの煙草をオーナーの手元のグラスにねじ込む)


男:ご馳走さん。


(男、ディーラーから鞄をひったくるようにして受け取り、オーナーを押しのけて雑居ビルを後にする)


(オーナー、男を見送って暫く、吸い殻の浮いた濁ったグラスをじっと眺める)


オーナー:彼は、及第点、かな。


(眺めていたグラスを頭上に掲げ、手首を返し頭からシャンパンを浴びる)


オーナー:いくら持っていかれた。


ディーラー:千に少し足りない程度です。


(オーナー、濡れた髪をかき上げてその場に大の字に横たわる)


オーナー:来なさい。


ディーラー:はい。


オーナー:いつものように。早くしなさい。


(ディーラー、オーナーの頭部に近づき、ヒールを脱いで蒸れたパンストのつま先で顔を蹂躙する)


オーナー:一千万もいかれた私を無能だと思うか。


ディーラー:はい、すぐにでも舌を噛み切って死んで詫びるくらいの雑魚ですね。


オーナー:舌を噛み切って死ぬ。それ、いいねえ!


(オーナーが大きく口を開き、ディーラーは呼応するように爪先を口腔にねじ込む)


ディーラー:御所望通り三日間履きっぱなしです。こんなもの口に入れてどうするんです。


(オーナー、口いっぱいにほおばりながらおもむろにスラックスのチャックを下す)


ディーラー:ちょっとでも火が付くとすぐどこでも犬みたいにして。

公私の区別もつかないんですね。恥ずかしい通り越してゴミ以下ですよ。

一千万抜かれてどうやって落とし前つけるんですか。

この薄汚いナマコでも切り落として申し開きしますか。


(ディーラー、一息にまくしたてて爪先を引き抜き、オーナーの屹立した陰茎に踵落としを入れる)


オーナー:いい、いいね。とってもいいなあ。いいよ。そのまま、もっと力を込めて。


(ディーラー、薄ら笑いを浮かべながら体重をかける。オーナー、呻きながら笑う)


ディーラー:こんなろくでもない店、バカ犬のクソ性器ごと潰れてしまえばいいですよ。


オーナー:うん、うん!さあ、ショーツを脱いで、ここに座りなさい。早く。


(オーナー、よだれまみれの顔を自ら平手で打つ)


ディーラー:顔に、ですか。


オーナー:早く!ウサギが逃げちゃうでしょうが!


ディーラー:その、さっき、来てしまいまして。


(オーナー、狼狽するディーラーに満面の笑みを浮かべてうなずく)


オーナー:知ってるよ。ウサギ小屋の匂いがしたからね。さあ早く跨って。


(ディーラー、ショーツを脱ぎオーナーの顔面に跨る)


ディーラー:子飼いの賭博屋の尻に敷かれるのがそんなにいいんですか。

生理用品以下の薄っぺらい男ですね、オーナー。


オーナー:あの男、赤と黒、どっちに何回かけた。


ディーラー:えっ。


(オーナー、鋭い怒号と共にディーラーの太腿を平手打つ)


オーナー:腰を振るのを止めるな!思い出せ!数えろ!整理しろ!時系列に沿って並べろ!

どちらもお前の仕事だ!早くしろ!早く!早く!


(ディーラー、腰を前後させながら呟くように数える)


ディーラー:赤が十一回、黒が、十五回、です。


オーナー:違う。赤が十二回で黒が十四回だ。


ディーラー:すみません。


オーナー:数も数えられない盆暗に跨られて罵られている私は無能かな。


ディーラー:……オーナーは、


オーナー:簡単な問いかけにも即答できない頭の弱い子に跨られて罵られている私は無能かな。


ディーラー:オーナーは、無能のロクデナシのゴミクズ以下の肉で出来た産業廃棄物ですよ。


オーナー:そうか、そうだよね、そうだよな!なあ!


(ディーラー、オーナーの陰茎に五指の爪を突き立てる。オーナー、四肢を痙攣させ嬉々として喘ぐ)


ディーラー:数も数えられない、簡単な問いかけにも即答できない

頭の悪い盆暗の汚い尻に潰されてさっさと死んだらどうです、このド無能。


(オーナー、呼吸荒く絶頂を迎える。頃合いを見計らい、黒服が近寄ってくる)


オーナー:今ウサギの数を数えてるんだ。後に・・・・・・。わかった。すぐ折り返す。



ディーラーモノローグ:六本木のホテルのラウンジバー。

カウンターの隅に腰かけた男は

煙草をふかしながらハイネケンのボトルを指でもてあそんでいる。

きらきらと赤いキャミソールを来た若い女が

さも当然といった顔で訊くより先に隣の席に腰を下ろした。


女:隣、いい。


(男、無視して煙草を灰皿で押し消す。女、体を男に寄せる)


女:いいじゃん。ねえ、なんでボトルビールなんて飲んでんの。

ここ高級ホテルのバーだよ。カクテルくらい飲んだら。

あれ、ほら、ダイヤモンドが入ったマティーニ。知ってる?すっげー高いの。

ねえ私あれ飲みたい。頼んでいい?いいでしょ、ねえ


(男、女の饒舌を遮るようにボトルを乱暴になぎ倒す)


男:お前、あのカジノの人間だな。


女:そう。送られたの。抱かれて来いって。


男:毒入りワインの次は毒娼婦か。鼻がもげる。


(女、キャミソールの胸元を引き下げてさらに男に近寄る)


女:どう、結構いいと思うけど。どこでも好きなところ、ベロベロなめてあげるよ。


(男、無視して新しい煙草に火をつける)


女:めんどくさいからさ、部屋行こ。ね。あんたの部屋で飲みなおそ。別に飲まなくてもいいけど。


男:金なら他所に置いてる。部屋にはねえよ。


女:うん、知ってる。


男:もう店に来ないでくれ、ってなら無理な話だ。


女:うん、それも知ってる。明日仕掛けるんでしょ。


(男、ようやく女に目を合わせる。銜えた煙草を指でつまみ、反転させ女の口に近づける)


男:どこまで知っている。


(女、答えずに差し出された煙草を銜えて深く吸い込み、煙を男に吹きかける)


女:するでしょ、セックス。したいでしょ。私と。


ディーラーモノローグ:薄暗い部屋の中、女は男に寄りかかり

ベッドルームへと歩を進める。

しなを作った女が翻り、背中からベッドへと倒れこもうとした刹那、

男の手が女の細い頸を捉え強かに絞めた。


女:ねえ、こういうのが好きなの?


(男、答えずに手に力をこめる。女の顔が紅潮していく)


女:苦しい、気持ちいい、ねえ、もっと絞めて。もっと、うん。


(女、やがて耐えかねてその場に膝をつく。男、女の左わき腹に右足で蹴りを入れる)


男:お前さ、自分のことを宝石か何かだと思ってるだろ。


(男、倒れこんだ女の髪を鷲掴みにし、力任せに立ち上がらせる)


男:お前さ、ダイヤモンドじゃねえんだよ。ジルコニアなんだよ。


(男、逆の手で女の頬を数度張り、頭をつかんだまま壁に叩きつける)


男:ただ空いてる隙間埋めるためにボンドか何かで貼っ付けられる安い石だよ。


女:痛い、痛い、痛いの、ねえ、もっと痛くしてよ。


男:芸術品じゃねえんだよ、工業品なんだよ。


(男、女の頭を小刻みに壁に打ち、そのまま額を壁に押し付ける)


男:滑稽だろ。二束三文にもならないまがい物の石が、自分を価値のある宝石だと思い込んでやがる。


女:ねえ、早く抱いてよ。


男:石が俺に指図するじゃねえ。


女:どうせ、あんただっておんなじじゃん。お互いなにもないよ、ただの筒だから。挿れて出してよ。


(男、乱暴に下着を引き下ろしそのまま後背位で無言で性交する)


男:お前、俺の女になれ。


女:いや。


男:何笑ってやがる。


女:ならない。


男:ああ、そう。


(男、後ろから女の首を再び絞め、腰を強く打ち当てる)


男:お前いい女だよ。


女:嘘つき。


男:嘘しかないからな。


(二人してベッドに倒れこむ。男、煙草に火をつけて一服し女に渡す)


女:ねえ、あの女と何回寝たの。


男:覚えてない。


女:良かった?


男:手段に良いも悪いもない。


女:上手だった?


男:ルーレットの腕程度。


女:へぇ。


(女、おもむろに男の腕から抜け出し、男のへそ下に滑り込んでいく)


男:気前がいいんだな。


女:約束したじゃん、いろんなところベロベロ舐めてあげるって。


(女、猫が皿をなめるような音を立てる。男、小さくつぶやく)


男:だからお前はジルコニアなんだよ。


(部屋の遠くでスマートフォンが鳴る。男、ぞんざいに女を押し飛ばし音の鳴るほうへ)


男:もしもし。ああ、わかってる。最後の客が捌けてから七回目だな。ああ。約束通り、お前が六で俺が四だ。


(女、飾戸を漁りアイスペールを取り出す。並んでおかれたアイスピックを手に取りじっと眺める。)


女:喉乾いたからさ、シャンパン飲もうよ。製氷器、この階にあったっけ。



オーナーモノローグ:雑居ビルの一室に

小ぶりなルーレット台を挟み対峙する

女ディーラーと男ひとり、その横に女、ひとり。


男は前が見えなくなるくらいの高さのチップの山を、黒の35に賭けた。


ディーラー:NO MORE BET


(放たれた球がウィールを駆け上がり、乾いた音を立て続ける)


オーナー:お連れ様がいるとは珍しいですね。


(オーナー、どこからとなく現れ二人に近寄りそれぞれの肩を左右に抱く)


男:こいつ、あんたの情婦(おんな)だろ。


オーナー:いいえ。初対面です。


女:タカナシさん、ちゃんと仕事したらカノジョにしてくれるっていったじゃん。


オーナー:昨日はお楽しみでしたか。


男:まあまあだったよ。


オーナー:それは何よりです。


女:ひどくない?三回もイッたのにまあまあはないっしょ。

あんなタバコくさい精子、全部飲んだのにさ。


(女、男にもたれかかる。男、女を押し返し、振り返ってオーナーを見据える)


男:あんたさ、今日で店(ここ)飛ばすんだろ。


オーナー:よくご存じで。


男:うん。でさ、もう最後だから聞きたいんだけど、どこから知ってたの。


オーナー:何のことでしょう。


(男、煙草を銜えて火をつける)


男:人が悪いな。昨日から今日までのことだよ。


(オーナー、煙草を男からひったくり、銜えて深く吸い込み吐き出す)


オーナー:割と几帳面なタチですが、博打が嫌いじゃないもので。


(オーナー、燃える煙草の先端を女のむき出しの肩口に押し付ける。女、悲鳴を上げてやがて小さく笑う)


オーナー:黒が出るか赤が出るか。この店と私の命、賭けてみたんですよ。


(球が止まる)


ディーラー:赤の3。チップを回収します。


(男、ルーレット台を蹴り上げ、女の髪を掴む。二人は転ぶように立ち上がり、男が尻ポケットからバタフライ・ナイフを取り出す)


オーナー:なんだ君、そっちについたのか!それも、対角に落とすなんて!なんて、なんて意地の悪い子だ!


(オーナー、高笑いを響かせ大仰に手をたたき笑う)


ディーラー:お客様、落ち着いてください。これはゲームです。


(男、女の首元にナイフの刃を当てる)


男:この石ころが内通してるかと思ったが、結局朝まで銜えこんできた。猿みたいにやることしか考えてねえ。

そこの鉄仮面は犯せば馬みたいにヒンヒン鳴く癖に、いざというときに仕事の一つもできやしねえ。

おまけにあんたは土台からいかれてる。まったくクソみたいなゲームだったよ。


オーナー:いやぁ予想外でした。てっきり彼女は私から全てを奪ってくれると思ってたんですけどね。予想よりずっと悪い子でした。

ごめんなさい、バカにしてるわけじゃないんですよ。ただね、笑いが止まらなくて。いやー超ウケる。


男:バカ三匹のおかげ様で文無しだ。飛ぶ前に仲良く堀の中にいこうぜ。


ディーラー:警察沙汰は困ります。これはゲームですから。


(男、ディーラーに刃先を向ける)


男:うるせえよこの役立たず!


オーナー:私、あなたとは友達になれる気がしていたんですよ。


(男、刃先をオーナーに向けなおす)


男:うるせえって言っただろこのキチガイ!


オーナー:だって今夜ここにきて、最後まで踊ってくれたじゃないですか。


男:黙れ、お前、お前の総てが癇に障るんだよ!


オーナー:でもいつも、最後は誰もいなくなるんですよね、ね。周りに、誰も。だから私と友達になりましょうよ。


男:殺すぞ!


(女、激昂した男の一瞬の腕の緩みに乗じ拘束から抜け出し、オーナーのもとへ駆け寄る)


オーナー:えっ?


(女、隠し持ったアイスピックをオーナーの腹部に深く突き立てる)


女:タカナシさーん、カノジョにしてくれるっていったじゃん。


(突き立てたアイスピックを言葉のたびに小刻みに揺らす)


女:嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。

嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。嘘つき。


(男、奇声をあげながら女に向けてナイフを振り上げる)


ディーラー:お客様、お静かに願います。


(ディーラー、ルーレット台の死角から拳銃を取り出し、男の頭を撃ち抜く)


女:あー、めっちゃ赤いんですけど。タカナシさんの黒シャツ。びちゃびちゃ。


(ディーラー、銃口を女に向ける)


ディーラー:NO MORE BET


女:最後に絞めてほしかったなー。タカナシさんに。


(女、オーナーの腹部からアイスピックを引き抜き、自らの頸に勢いよく突き立てる)


女:ジルコニアでもさあ、光んないよりは、よっぽど、いいよねぇ。


(オーナー、重なった男女の死骸の上に倒れこみ、ルーレット台越しにディーラーを見据える)


オーナー:賭けを見誤って死に損なっている私を無能だと思うか。


ディーラー:ええ。先見性のない刹那的で享楽主義者のクソ無能ですよ。


オーナー:だよな。だよなぁ!うん、そうだよな。


(オーナー、喜色満面で息絶える。ディーラー、三つ重なる屍の上に腰かけて微笑む)


ディーラー:そういうところが、好きでした。


銃声。

エンドロール







































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