第35話 大団円と思っていいんだろうか?

「どこに行くのか聞かないのか?」


 シーツで簀巻きにされ膝に乗せられているアメリアは返事をしない。


 20分位走った後、馬車から下ろされた。


「騒がないならシーツを外すけど?」

「・・」


「この間より抱き心地が悪いな」


 シーツの中でアメリアの体が硬直した。



「飯くらい食えよ。コルセットしてないんだろ?」


 妙に楽しそうなアレクシスはアメリアを軽々と抱え歩きながら、こそこそと誰かと話をしている。


「マジか?」


 イライジャの声が聞こえてきた後、走って行く気配がした。




「婚約されるのはどなたでしょうか?」


 シーツが固まった。


「俺ともう一人はこの中にいる」

「はあ?」

「立会人は後ろの三人だ」


「あの・・」

「心配ない、始めてくれ」


「いや、しかし」


 イライジャが皮袋に入った大量の金貨をわたすと、戸惑っていた司祭は


「はじめはしますが、シーツの中の方の意思を確認できない限り認められませんが宜しいですか?」


「ああ、問題ない」


 司祭が名前などの確認を行ったが、アメリアが口を利かないので困惑している。


「これでは先に進めません」


「アメリア、さっさとYESって返事しろよ。

シーツを剥がして別の噂話を作るか?」



「YESよ。もういいでしょ? さっさとうちに帰らせて」



「よし、ジョシュア今度はお前だ。出せ」


 ジョシュアがポケットから金貨の入った革袋を出して司祭に渡した。



「婚約公示期間を省略する。

イライジャ、俺のポケットから許可証を出してくれ」


「無茶言わないでください。石器時代じゃあるまいし、こんな結婚聞いたことありません」


「まぁ、そんな難しく考えなくても大丈夫だから。色んな人間がいりゃ色んな結婚があってもいいだろ?」




 ここでもアレクシスは無理矢理アメリアにYESと言わせ、教会内で行うミサまで持ち込んだ。


 シーツを剥がされたアメリアは、腕を組んでアレクシスを睨みつけ、

「どう言うつもり?」


「今頃新しい噂が流れてるはずだ。さっきまで周りに山盛りの人がいたからな。


このまま出て行ったら醜聞に巻き込まれる。嫌なら俺と結婚しろ」


「お断りよ、冗談じゃないわ」


「この間俺達が何をしたか、ここで話そうか?」


「脅しても無駄よ」



「俺の事が嫌いならあんな事しな「煩いわね、黙って頂戴」」




「いつまでも隠してないで、思ってる事全部話せよ」




 アメリアは俯いたまま何も離さず、教会の中は静まりかえっていた。


 ぽつりぽつりとアメリアが話し始めた。



「13歳になる直前お父様が負債を抱えて、婚約破棄されたの。

噂、ひそひそ話。外に出るたびに、どこに行っても揶揄われたわ。

それからずっと働いて、少しでも沢山稼がなきゃって。

お父様もお母様も頑張ってたけど、弟も妹達もまだ小さくて。

その内に、貴族のくせに働いてるって馬鹿にされ始めたの。


地味で目立たない家庭教師になって、ホッとしていたらギルバートが戻ってきた。


二度とあんな思いはしたくないの」



「俺のことが嫌いじゃないならこのまま結婚すればいい。

あんたは好きな場所で好きなことをして暮らす。俺はあんたといたいから一緒にいる」


「まさか、私の事が好きとか?」


「そうじゃなきゃ結婚なんて言わないだろ?


あんたみたいに頑固で口煩くて面倒くさい女と結婚したがるのは、それくらいしか理由はない」



「離婚だの浮気だのでちょっとでも醜聞を作ったら去勢するわよ。


それで良ければ結婚するわ」



「よっしゃ、言質はとった。結婚式続行だ」



 司祭が口を開いた。





「あの、本当にそれで良いんでしょうか?」


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