第34話 籠城しました

「無理ですね。お嬢様はずっと部屋から出て気なさらんです」


「食事は?」

「それもお部屋です」



 サリバン公爵家のパーティーの翌日から、アメリアは部屋に籠城していた。

 一日中レースを編み、食事も部屋でとる。


 三兄弟がやって来ても、挨拶に出向くことすらしない。



「お嬢様、今日も挨拶しなさらんですか?」


「お父様かお母様は?」

「お出かけになられとります」


「では、お留守だからとお断りして頂戴」


「何があったですか?」

「何もないわ。ただ、今のうちに少しでもレースを売りたいの。

直ぐに値崩れしてしまうはずだから、今がチャンスなの」



(馬鹿なことしちゃった。醜聞も噂話も懲り懲りなのに)



 パーティーから三週間経ったが、アメリアはまだ籠城を続けている。


「俺が話してくる」


 イライジャがソファから立ち上がったがアレクシスが、

「行くなら俺が」


「アメリアが気にしてるのはこの間のパーティーだろ? だったら当事者じゃない俺の方がいいだろう」


 暫くしてイライジャが応接室に戻って来たが、暗い顔で首を横に振っている。


「駄目だ、いくら声をかけても返事がない。

少し時間を空けてまた声をかけてみる」



 午後になりイライジャがもう一度声をかけに行こうとすると、アレクシスが突然立ち上がり、応接室を出て行った。


 アレクシスはアメリアの部屋のドアをノックし、

「アメリア、話がある。ここを開けてくれないか?」


 何度声をかけても返事すらない。

「アメリア開けるぞ」


 ドアノブを回してみたが鍵がかかっている。

「アメリア、話し合おう。ここを開けてくれ」



 廊下の向こうから、イライジャとジョシュアとロージーが心配そうに様子を伺っている。



 痺れを切らしたアレクシスが怒鳴った。

「アメリア、ドアから離れてろ!」


 ドアを蹴破って中に入って行った。



「凄い」

「ああ、新しいアレクシス誕生のシーンだな」



 部屋の中ではアメリアとアレクシスが睨み合っていた。


「珍しい登場の仕方ね。ご用件をお聞きした方がいいかしら?」


「理由は? 何で部屋に籠城してる?」


「分かりきってるでしょう? 噂が消えるのを待ってるのよ。

次の噂が出てくれば、私の事なんてみんな忘れてくれるわ」


「ほう、次の噂話が出ればいいのか?

それまで籠城を続ける気か?」


「あなたには関係ないわ。放っといて」



「だったら次の噂とやらを作ってやるよ」

「どう言う事?」


 アレクシスは部屋の中を見回し、ベッドからシーツを引き剥がしアメリアを簀巻きにして抱え上げた。


「ちょっ、ちょっと降ろして。何するのよ! ロージー、誰か・・」



 腕の中で暴れるアメリアに、

「それ以上暴れてると落っことしそうだ」

 アメリアがピタリと動きが止まった。



「ロージー、馬車の準備だ。

イライジャとジョシュアは、うちの馬車で後ろからついて来てくれ」


「どこに行くんだ?」




「これ以上暴れられると面倒だから、着いてからのお楽しみだ」


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