第33話 アレクシスは意外に・・

「全く、そんなドレス着せるんじゃなかったよ」


「アレクシスが無理矢理押しつけたんでしょう? 私に文句を言うのはお門違いよ」


 アメリアとアレクシスはワインを片手に、にこやかな微笑みを浮かべながら喧嘩していた。




 新たな喧嘩の原因がまた、こちらにやってくる。


「くそ、まただ。なんでこんなにうじゃうじゃ湧いてくるんだ?」


「珍しいんじゃないかしら? 珍獣を見に行く観光客みたいなものよ。一度見たら納得するって感じかしら」


「だったら見物料貰ってやる」


「ドレス代の一部にして頂戴」




「やあ、ランドルフ嬢。最近あちこちでお見かけしていたが、今日は間違えるほど美しい。

この後ダン「申し訳ないが今日は私としか踊らない約束なんでね」」


「そうか、では次のパーティーでは是非一曲お願いできるだろうか?」


 口を出しかけたアレクシスの脇に肘を押し付け、

「その時はまた、お声をおかけくださいませ」




「アメリアは二度とパーティーには参加しない!」

「また、勝手な事を。そんな事誰が「俺が決めた。今後一切絶対に参加しない」」


「勝手に言ってれば良いわ」




「ねぇ、壁際に立ったままなんて退屈なんだけど」

「知ってる」


「ダンスがしたいわ」

「駄目だ、また変なのが寄ってくる」


「・・みんながダンスしてのを見るのは?」

「あの区域は立ち入り禁止だ」


「さっきからずっと、アレクシスの胸のボタンしか見てないんだけど?」

「何個あるか数えておいてくれ」




「お腹が空いたわ。せめて何か食べない?」

「それは良い案かも、行こう」


 二人はホールの隣の部屋にやってきた。


 白いクロスをかけた長いテーブルがいくつも並び、沢山の種類の料理が並べられている。


 壁際に並べられた椅子の一つにアメリアを座らせ、

「好き嫌いはある?」

「いいえ、なんでも大丈夫。でもそんなに沢山は入らないから」


「お腹空いてないの?」


「空いてるけど。誰かさんのおかげで、ギュウギュに締めたコルセットが食べちゃ駄目って言ってるわ」


 アレクシスが二つの皿とフォークを2本持って戻ってくると、アメリアの側には三人の男が立っている。


「くそっ! アメリア、待たせたかな?」


「アレクシス、ありがとう。

皆さんもありがとうございます。どうかあちらで楽しんでくださいね」


「良かったら後で「すまない、アメリアはこの後予定が詰まってるんだ」」


 男達の後ろ姿を見ながら、

「ほんのちょっとの時間だぞ、何で一人でいられないんだ?」

「向こうが勝手にやってきたのよ。私はさっきから一歩も動いてないわ」




 上の空のまま料理をほんの少しつついていたアレクシスが、突然アメリアの腕を掴み立ち上がった。


「どこに行くの?」


 壁際をそろそろと進んで行くアレクシス。


「ねぇ、どこに行くの?」



 そっとドアを開けてテラスに出る。


 凍りつくような冷気に腕をさすりながら、

「アレクシス、流石にここは寒すぎるわ」


「こうすればいい」


 アレクシスがアメリアの両手を自分のジャケットの中に入れ、しっかりと抱きしめた。

 そして、小さく聞こえてくる音楽に乗せてゆっくりとダンスを踊り続けた。



 その頃ホールの中ではイライジャとジョシュアが、


「今日はテラスにも逃げ出せんな」


 盛大なため息をつき、

「帰るか?」

「駄目、見たい」




「だよな。

こんな面白い見せ物、二度と見れんぞ」


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