第31話 狼の皮
(気合よ、アメリア。大丈夫、たかがドレス・・されどドレス・・・・はぁ)
「お嬢様、またそれですかい? 今日はルンブラントはないですけえ、壁紙見つめるですか?」
「レンブラントよ、あの時見てたのは」
「んで、朝までそうしとらっしゃるおつもりで?」
「・・よし! 今日を乗り切れば大丈夫」
アメリアは勇気を振るい応接室へと向かう。
「まったく、気の弱いお嬢様だねえ」
「そんなこと思うのはロージーだけよ」
「最近そうでもない気がしますで?
被ってる皮に綻びが出とられます」
「被るのは猫、皮を被るのは・・狼よ」
「ならお嬢様は皮をひっくり返して被っとりなさる」
ロージーがケラケラと笑い、アメリアは眉間に皺を寄せた。
後ろを振り返りロージーを指を差して、
「私は羊じゃないから、火で炙って食べられたりしないわ。多分ね」
「ひゅ~、こいつは凄い。アレクシス趣味良いな」
「食べる?」
「予想通りだ。普段の服装がストイックなだけに、堪らないね」
慌てて振り返ると、三兄弟が応接室から顔を覗かせていた。
「応接室のドアを開けっ放しなんて信じられないわ」
「閉まってたんだけど声が聞こえたから、アメリアが臆病風に吹かれる前に救出しようかと」
「これはアレクシス様、お気遣い頂き誠に恐縮でございます」
「「ほんとだ」」
「だろ?」
アメリアは胡散臭いものを見るような目で、
「何がでございましょうか?」
「アメリアは緊張すると家庭教師に戻る」
「もっ、戻るも何も私は家庭教師でございます!」
「アメリア、そんなに肩に力を入れてると肩こりで眠れなくなるぞ」
アメリアは大きく深呼吸し、特大の笑みを浮かべた。
「では皆様十分に余興は楽しまれたようですので、そろそ「アメリア、怖い」」
「ジョシュア、そんな!」
イライジャとアレクシスが大爆笑した。
今日はサリバン公爵の夜会。
歴史ある広大な屋敷は赤と緑のクリスマス風の飾り付けがされており、入り口の両サイドにはキューピッドの像が飾られていた。
アメリアは背筋をピンと伸ばし、アレクシスの腕にかけた指が強張っている。
アレクシスが耳元で囁いた。
「ヤドリギがあったらキスして良い?」
「・・なっ、何を。ばっ・・馬鹿な事を言わないで」
「顔が真っ青だったからね、色が戻ってきて安心した。戻りすぎかもだけど」
アレクシスがニヤリと笑う。
「そろそろ寂しくなったのでしょう?
今日こそどなたかに決められると宜しいかと」
「もうアメリアに決めてるし」
「もう十分ですわ。これ以上お戯れを仰るのでしたら私は「ごめん、緊張を解せたらいいなと思ったけど、やり過ぎた」」
ドアが開かれ一歩中に入ると、和やかに談笑していた人達が段々と静まり返っていった。
アメリアは顔が引き攣らないよう必死で頬に力を込めて、会釈しながら参加者達の横を通り過ぎていく。
「大丈夫かい?」
「勿論ですわ、不躾な態度の方など気にする必要はございませんもの」
「漸く狼の皮被れたみたいだね」
「・・」
後ろから来ていたジョシュアが、
「あっヤドリギ」
アメリアは盛大につまずいた。
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