第30話 新しい図案

 朝日が昇り街を明るく照らし始めた頃、アメリアはロージーと共に馬車に揺られていた。


「ロージーの裏切り者。こんな、乗馬服だけでなく高価なマントまで。

もし汚したり傷つけたりしたら、弁償なんて出来ないわ」


「心配するこたぁねえです。それは全部お嬢様へのプレゼントだ、言うとられました」



「それこそ困るわ。そんなことされる理由がないもの」


「イライジャ様はお嬢様に求婚しとられるんでしょう?」


「形だけね。本気じゃない事くらいロージーだって分かってる癖に」


「なら、お嬢様のお気持ちは?

お二方が本気だったら?」


「・・考えたくない。漸く借金返済の目処が立ったのよ。

今はそれだけで十分」



「子供は欲しゅうないですか?」


「・・」


「嬢ちゃま達が産まれんさった時、随分と可愛がっておいででしたが?」



「・・いつか甥や姪が産まれるから良いの。

もう行き遅れだもの」


「歳を逃げ道にしたらいかんです」




 冬晴れの澄み切った空気を胸いっぱいに吸い込み、アメリアは周りをゆっくりと見回した。


「王都の近くにこんなところがあるなんて、びっくりしました」


クレイグキャンベル公爵が教えてくれたんだ。仕事の合間に時間ができた時来るらしい。

春や秋にはカサンドラも連れて来ると言ってた」


「新鮮な空気と鳥の声、景色も最高です」


「少し散歩でもするか?」


「はい」



 下草の生えた広場を歩き林の外れに近づいた時、

「ストロベリーツリーですね。花の横にまだ実が残ってますわ」


「アメリアは草花の事、随分詳しいんだな。ジョシュアが感心してた」


「レースの図案を考える時、図書館で毎日のように図鑑を眺めていますの。

想像力が乏しいのか、中々思いつかなくていつも苦労します」



「カサンドラの話では、アメリアのレースは随分有名らしいね」


「ありがたい事です。今はノルマンディーレースを作れる人が少ないので、希少価値とでも言いますか。

でも、作れる人が増えてきたら私なんて直ぐに埋もれてしまいますわ」



「俺達にいつも言ってるようにか?」


「?」


「大勢の令嬢に囲まれたらって」


「あら、そう言えばそうですわね」


 アメリアは屈託なく笑い、

「もう少し語彙を増やさなくてはいけませんね」


 ストロベリーツリーをじっくり見ているアメリアに、

「スケッチとかしないのか?」


「見て覚えて帰れば十分ですの。態々紙を使わなくても、頭の中でしっかりと形にしたら大きなもの以外は作れます」


「忘れるとか」


「大きなものは図面に残しますけど、他の物は忘れる前に一気に作り上げてしまいますから」


「で、ロージーに叱られる」


「はい、その通りです」


 二人は顔を見合わせて笑った。




 乗馬は思ったより楽しく早足で駆けさせることは出来なかったが、イライジャが馬と一体になって駆ける様子を見ながら、


(馬の図案も良いかも)


と考えていた。


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