第22話 戦うアメリア
「ふん、そんな脅しが効くとでも? これだから女は愚かだと言うんだ。
やれるものならやってみろよ」
「ロージータオルを沢山持ってきて。
ギルバート様はもし私がレース織りが出来なくなったらどうなさいます?」
「そんな役立たずは要らんに決まってる」
「では、指を切りレースを織れなくしましょう。その上でこの話をノルマンディーレースを希望されている貴族の方に話させて頂きます」
「何だと!」
「仕方ありませんでしょう? 今後どれほど望まれても、レースをお作りできなくなった経緯を話さない訳には参りませんもの。
皆さん高位貴族の方ですから、いずれは別の職人を見つける事でしょう。
それまでお待ち頂く事になりますから」
ギルバートが頭の中で、リスクを計算しているのが手に取る様に分かった。
「くそ、覚えてろよ!」
捨て台詞を吐いたギルバートは、足音高く出て行った。
「アメリア、大丈夫か?」
「はい。ちょっと腰が抜けそうで動ける自信はありませんが、それ以外は大丈夫です」
後ろからロージーの声がした。
「お嬢様、終わっとったですか? 指は揃っとられますか?」
「ええ、全部揃ってるわ。それよりロージーあなた何持ってるの?」
「厨房から肉切り包丁を借りてきましたです。お嬢様のもっとられるナイフでは指は切れませんで、これで私の指を落としてお嬢様の指の振りをしようかと」
「ロージー・・あなた」
限界を超えたアメリアはその場で気を失った。
寒さが厳しくなり始め、街にはコートを羽織った人が増えてきた。
ランドルフ邸の庭では、低木のユリオプスデージーが黄色い花をつけ、青いローズマリーの花も咲いていた。
アメリアは今日も部屋に籠ってレースを織っている。
レイラは出来上がったレースを得意先に持っていく傍ら、家庭教師を探している家がないか調べてくれているが、前回の奉公先からの紹介状のないアメリアを雇ってくれるところは見つからなかった。
「家庭教師の道は取り敢えず諦めますわ。
キャンベル公爵家から紹介状を頂けなかったのは、私の力不足のせいですから。
今はノルマンディーレースが高値で売れてますし、もう直ぐスコット公爵ご一家が王都にお見えになるってお手紙が届きましたの」
毎日、昼夜を問わずレースを編み続けるアメリアにロージーが痺れを切らし、
「お嬢様、偶にはお庭くれえ散歩してくだせえ。こんな青っちろくなっちまって。
10年引き籠もってた言うジョシュア様の方がよっぽどか日に焼けてなさったです」
「坊っちゃまって言わないのね」
アメリアが揶揄うと、
「はい、王都に来るってご自分から言いなさったんですから、もう坊っちゃまとは呼べねえです」
「ロージーの方言は直らないけど?」
「方言はジョシュア様とのお喋りのきっかけですからねえ、やめれんです」
「そうなの? 全然知らなかったわ」
「お嬢様がおられん時に、ジョシュア様から“方言聞きたい” 言われましたです。
珍しかったんでしょうねえ。
それ以来時々話しとりましたが、方言が出れば出るほど喜びなさって」
「ロージーと一緒に行って大正解だったわね。ジョシュアが早くに打ち解けてくれたのはあなたのおかげね」
「で? いつんなったら庭に出なさると?
誤魔化しは効きませんです」
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